第48話

その日の夕方、私はカフェでの出来事に動揺しながら家に帰っていた。


道を歩いていると、前方に見覚えのある姿が見えた。


心臓がドキドキと高鳴る。


「心桜」

「柊先輩…?先輩がどうしてここに?」


驚きと喜びが入り混じった声が出た。


「んー?心桜に会いたくて」

柊先輩は微笑んだ。


その笑顔に、私は少しだけ心が軽くなった気がした。


「先輩、」

私は思わず先輩に抱きついた。


温かい体温が心地よく、涙がこぼれそうになる。


「心桜?」

柊先輩は驚いたように私を見つめた。


「私も、すごく会いたかった、」

私は涙をこらえながら言った。


柊先輩は優しく私の背中を撫でてくれた。


その手の温かさが、私の心を少しずつ癒してくれる。


「落ち着いた?」

柊先輩の声が優しく響く。


「うん、」

私は深呼吸をして、少しだけ気持ちが落ち着いた。


「じゃ、帰ろっか」

柊先輩が提案する。


「うん」

私は頷いた。


「それで、何があったの?」

柊先輩が心配そうに尋ねる。


「え?」

私は一瞬戸惑った。


「心桜が甘えてくるなんて珍しいし。それに…」

柊先輩は言葉を続ける。


「それに?」

私は先輩の言葉の続きを待った。


「いや、なんでもない」

柊先輩は微笑んで首を振った。


「別に大したことじゃ、」

そう言いかけたけど、先輩の真剣な目に言葉を飲み込んだ。


「何があったのか話してくれる?」

柊先輩の声が優しく、だけど力強く響いた。


「…分かった」

私は深呼吸をして、カフェでの出来事を話し始めた。


話しているうちに、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。


柊先輩は真剣に聞いてくれた。


「大変だったね」

「うん、」


「心桜が無事で良かった」

柊先輩は優しく微笑んだ。


笑顔に、私は救われる思いがした。


その後、二人でしばらく話しながら歩き、私は少しずつ気持ちが落ち着いていった。


先輩と一緒にいると、心が安らぐ。


家の前に着いた時、柊先輩が立ち止まり、私の顔を見つめた。


「心桜、いつでも電話、してきていいからね」


「先輩…」

私は胸が高鳴るのを感じた。


先輩の言葉が、心に深く響いた。


柊先輩は優しく微笑み、私の顔にそっと手を添えた。


そして、ゆっくりと顔を近づけ、私の唇に軽くキスをした。


その瞬間、全ての不安が消え去るような気がした。


「また学校でね」

柊先輩は微笑んだ。


「先輩も気をつけて帰ってね、」


私は微笑み返した。


柊先輩は手を振りながら去って行き、私はその場に立ち尽くしていた。


心の中には、温かい安心感が広がっていた。


先輩の存在が、私にとって何よりも大切だと感じた。

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