第43話

朝、学校で柊先輩を呼び出した。


「昨日は、勝手に帰ってごめんなさい」

「俺の方こそ、傷つけるようなこと言ってごめん」


違う。傷ついてなんかない。

だって、


「私、本当は嬉しかったの」

私は小さな声で言った。


「え?」

柊先輩は驚いた表情を見せた。


「本当は分かってた。柊先輩は私のことを思ってあぁ言ってくれたってこと」

私は目を伏せた。


「もちろん心桜のためもあるけど…俺が、心桜のそばにいたかったんだ 」


柊先輩もそう思ってくれてたんだ。


「そっか、」


「心桜の言う通りだった」

柊先輩は自分を責めるように言った。


「え?」

私は驚いて柊先輩を見つめた。


「心桜のお願いは聞かなかったのにわがままだったよね。ごめん」

柊先輩は深く息をついた。


昨日のこと、、

そりゃ、気にするよね。


「でも、急にどうして一緒にいたいなんて」


「それは…」

柊先輩は言葉を探しているようだった。


「何?」


なにか隠してるように見えるけど、


「心桜が、」

柊先輩は一瞬ためらった。


「私?」


「心桜が…寂しい思いしてるって分かって、すごく反省した。それと、」

柊先輩の声は少し震えていた。


「それと?」

私は息を飲んだ。


「その、俺も、心桜と同じになって初めて、気づいたんだ。心桜がどんな気持ちだったのか。それでさらに反省した」


柊先輩の目には真剣さが宿っていた。


私と同じ気持ち…?

それって、


「私と同じ気持ちって、寂しかったってこと、?」

私は涙がこぼれそうになった。


私が咲月とか遥希くんとずっと一緒にいたから…?

距離を置く前から避けてたから、?


「ごめん。ほんとは俺がこんなこと言う権利ないよね」


柊先輩は自分を責めるように言った。


「どうして?」

私は首をかしげた。


柊先輩にだって寂しいって言う権利はある。


「だって先に寂しくさせちゃったのは俺の方だし」柊先輩の言葉に、私は胸が痛んだ。


「ごめんなさい」


「え?なんで心桜が謝るの」

柊先輩は驚いた表情を浮かべた。


「寂しい思いさせて、私もごめん」

私は涙をこらえながら言った。


柊先輩の気持ちに気づいてあげられなかった。

自分のことばっかりだった。


「いや、俺が悪いよ」

「ちゃんと気持ちを伝えなかった私も悪い」


あの時、寂しいって正直に言ってたら、ここまで大事にはならなかった。


「心桜、」


「あの後、考えたんだ。私は柊先輩が変わってくれないかなって期待してたけど、それは私も一緒だった」


咲月は変わらなくてもいいんじゃないって言ってくれたけど、ずっとモヤモヤしてた。


「どういうこと、?」


「変わらないといけないのは私も一緒だった」


私は真剣な眼差しで柊先輩を見つめた。

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