第42話


離れていかないで。


なんて、そんな自分勝手なことは言えない。


「そう言うなら、先輩は?」

心桜の声が冷たく響いた。


俺…?


「え?」

驚きと戸惑いが交錯する。


「ただの幼馴染だって思ってるのは柊先輩だけじゃない?」

心桜の目が鋭くなった。


「どうして、そんなこと…」

俺は言葉を失った。


これは心桜の本心なんだろうか。


「これで分かりましたか?友達だって言ってるのに、信じて貰えない気持ち」

心桜の声には怒りが混じっていた。


それとも、対抗しようとして思ってもいないことを言ってるだけなのか。


「本当に沙紀とは何も無くて、心桜もずっと一緒にいたんだから分かってくれるでしょ?」


俺は必死に弁解した。

心桜は分かってくれてるんだと思ってたのに。


「ただの幼馴染だって思ってるのは柊先輩だけじゃない?」


心桜の言葉が頭の中で繰り返される。


「どうして、そんなこと…」


どうして寄りにもよってそんな大事なことを今言うの。


幼馴染を構ってばかりだから怒ってるのかと思っていたのに、


「これで分かりましたか?友達だって言ってるのに、信じて貰えない気持ち」

心桜の言葉が胸に突き刺さる。


そうじゃなかったってこと、?


「本当に沙紀とは何も無くて、心桜もずっと一緒にいたんだから分かってくれるでしょ?」

俺は心桜の目を見つめた。


俺たちは本当にただの幼馴染で、それ以上の感情はお互いない。


心桜もずっと近くで見てたから分かるはず。


「…証拠は?」

心桜の声が低くなった。


「え?」


「沙紀先輩が、柊先輩のことを好きじゃないって証拠。あるんですか?」

心桜の目が鋭く光った。


証拠なんてない。


本人に俺の事を好きかどうかなんて聞かなくても分かる。


「ないけど、そんなもの、」


必要ない。


「それは流石に…ズルくない?自分は信じないくせに、相手には信じさせるんだね」

心桜の言葉が冷たく響いた。


「違う、そうじゃなくて。俺はただ…」

俺は必死に言い訳を探した。


だけど、心桜の言う通りだ。


俺は遥希くんは心桜のことが好きだって確信してる。


だけど、心桜はその事に気づいてないんだから、そう思うのも無理は無い。


これ以上話しても納得できないはずだ。


「少しの間だけでも距離を置いて、お互いの気持ちを整理する時間が必要だと思う」


心桜は俺に提案した。


「でも、俺は心桜と離れたくない」


我儘だって分かってる。


だけど、今距離を置いてしまったらきっと後悔する。


「私も離れたくない。でも、今はそれが必要だと思うから」


心桜の目を見るともう何も言えなくなった。


「分かった。少しの間だけ距離を置こう。でも、俺は心桜のことを諦めるつもりはないから」


俺は決意を固めた。


遥希くんのことも沙紀のこともちゃんと確信を持ってからまた心桜と向き合う。


じゃないと、心桜との関係を繋ぎ止めていたとしても、心桜はずっと辛い思いをしたままだから。

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