第40話

俺は、いつも明るく笑う心桜のことが大好きで、初めて会った時から目が離せなかった。


心桜はどうして私と付き合おうと思ったのか未だに分からないってよく言うけど、


むしろいつ心桜が取られるか気が気じゃないのは俺の方だ。



俺たちがすれ違い始めたのは…



多分沙紀が学校に来始めてから。



沙紀は幼なじみで、それ以上でもそれ以下でもない。


沙紀もそう思っているはずで、


心桜は何も言わないから分かってくれてると思ってた。


だけど、それは俺の勘違いだったみたいだ、。



あの日…


心桜が遥希くんと抱き合っているのを見た時、


頭を殴られた気がした。


ショックだった。



心桜が、、



俺じゃない、他の人に慰められていたから。


いつもなら、その場所にいたのは俺だったのに。



「どうして心桜は俺に相談してくれなかったんだろう、」


心桜の気持ちを理解しようと必死だった。


「なんでか本当に分からないの?」


朝陽は少し苛立ちを隠せない様子で問いかけてくる。


「どういうこと」


「相談できなかったのは、悩みの種が柊。お前だからだよ」


朝陽の言葉は鋭く、俺の胸に突き刺さった。


「俺…?」


俺のせいで、心桜が悩んでるの、?


「お前の行動を振り返ってみろよ。心桜ちゃん可哀想だろ」


朝陽は真剣な眼差しで俺を見つめる。


自分の行動を思い返した。


考えてみれば、俺は沙紀ばかりに構っていたかもしれない。


「沙紀のことで…」


「お前の気持ちも分かる。だけど、彼女を放ったらかしにするのは良くないだろ」


「そんなつもりは、」


そんなつもりはなかった。


だけど、自分の無意識の行動が心桜にどれほどの傷を与えたのか、初めて気づいた。


「お前にそんなつもりはなくても、心桜ちゃんにはそう感じたんだよ」


朝陽は静かに、しかし確信を持って言った。


沙紀がこんなにも長く学校にいれたことは初めてで、嬉しくて浮かれてた。


今までのこと、全部美桜に謝ろう。


ちょうど心桜に呼び出されたから、自分の気持ちをちゃんと伝えようと思っていた。


「柊先輩」

「心桜、俺」


今まで心桜に甘えてた。何も言われないからといって何も思ってないわけじゃないのに。ごめん。


そう言いたかったのに、


「私から先に言わせてください」


心桜が俺の言葉を遮って自分の意見を言おうとしたのは初めてだった。


嫌な予感がした。


「先輩」


俺の勘違いであって欲しかった。


「…分かった」


それなのに…


「私、先輩と距離を置こうと思っています」


結局予感は的中してしまって、


心桜の目に揺らがない何かを感じた。


「どうして、」


俺は、そこまで思い詰めていたのに気づかなかったなんて、


「私たちの関係がこのままではいけないと思ったんです。お互いにとって良くないと思うから」


俺はふと思って口走ってしまった。


「それって…、美桜がその決断を出した理由の中に、あの子も関連してたりするのかな、」


あの時の心桜の顔が忘れられない。


「あの子…?」



これ以上何も喋るな。


だけど、どうしても止まらなかった。


止まれなかった。

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