第39話

「あれ心桜…?」


咲月の声が聞こえた。


私は顔を上げ、咲月の方を見た。


「咲月、」

「柊先輩は?」


「途中で別れた」

私は視線をそらし、ため息をついた。


「えぇ、なんで」

咲月は驚いた様子で尋ねた。


そりゃ、ビックリするよね、


「それが…」

私は言葉を探しながら、心の中で整理しようとした。


___



「なるほどねぇ、」

咲月は納得したように頷いた。


「おかしいよね、私、」

私は自嘲気味に笑った。


「ん?どうして?」

咲月は首をかしげた。


「だって、あれだけ二人きりになりたかったのに、いざ二人きりになったら今度は理由が気に食わないなんて」

私は自分の矛盾に気づき、苦笑いを浮かべた。


私のために変わる努力をしてくれるだけでもありがたいのに、気持ちまで一緒じゃないと嫌だなんて。


どうして、こうも欲張りになってしまうんだろうか。


「それの何がおかしいの?」

咲月は優しく問いかけた。


「え?」

私は驚いて咲月を見た。


「人間元々欲張りなんだから」

咲月は微笑んだ。


「それは、そうかもしれないけど…」


「それに、心桜は今までたっくさん我慢したんだから、沢山ワガママ言って困らせちゃいなよ」

咲月は励ますようにそう言った。


「でも、」


私のワガママで柊先輩を困らせたくないし、疲れさせたくない。


「柊先輩は心桜がワガママ言って離れていくような人なの?」


「違う、!」

私は即座に答えた。


柊先輩は優しい。


だから、私といる時ぐらいは…って思ってたのに。


「柊先輩も心桜のために変わり始めたんだね」咲月は微笑んだ。


「うん、そうなんだと思う」

私は頷いた。


「先輩今頃焦ってるだろうね」

咲月は笑った。


「だよね、」


私は、笑えなかった。


あの後、先輩が必死に慰めようとしてたけど、


私が

「着いてこないで!」

そう言って先に帰ってしまった。


あの時の柊先輩の顔は…


すごく、傷ついてた。


どうしてこうも上手くいかないんだろう。


「私も変わらないとなのかなぁ」

私は呟いた。


「え?」

咲月は驚いたように聞き返した。


「柊先輩が私のために変わる努力をしてくれるなら、私も、変わらないとなのかなって思って」


柊先輩ばっかりに期待して、そのくせ自分は変わろうとしないなんて、良くない。


「それは違うんじゃない?」

咲月は首を振った。


「そう?」


「だって、柊先輩は、心桜が変わることを望んでるの?」

咲月は真剣な表情で尋ねた。


確かに…。


「…望んでない、と思う」


私は少し考えてから答えた。


「でしょ?」


咲月は微笑んだ。



だけど、どうしても…。


柊先輩ばかりが変わる努力をするのは、腑に落ちなかった。

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