第38話
「心桜」
先輩の声が聞こえた瞬間、胸がドキッとした。
「柊先輩…?」
私は驚いて振り返った。
どうして先輩が教室に、何か話しでも
「一緒に帰ろ」
「え、?」
先輩の提案に、一瞬戸惑った。
「帰ろ?」
先輩の優しい声に、
「分かった、」
私は小さく頷いた。
「心桜ちゃん、また明日ね」
遥希くんが笑顔で手を振った。
「遥希くんまた明日、」
私は遥希くんに手を振り返した。
「先輩待って」
私は急いで先輩を追いかけた。
「ん?」
先輩が振り返った。
沙紀先輩の姿が見えない。
「その沙紀先輩は…」
私は気になって尋ねた。
「一人で帰ったよ」
「え、どうして」
「一人で帰れるって」
先輩の言葉に、少し不安がよぎった。
「でも、」
でも何で。
いつもなら咲月先輩が大丈夫だって言っても
「心桜は俺と帰るの嫌…?」
先輩の問いに、胸が締め付けられた。
「嫌なわけない、」
私は急いで否定した。
私が、どれだけこの日を夢見ていたことか。
「良かった」
先輩の笑顔に、少し安心した。
「一緒に帰るの久しぶりだね」
「…たまにでいいから、心桜と二人で過ごす時間が欲しい。もっと心桜と一緒にいたい。だからたまには俺とも」
「ちょ、っと待って、」
私は急いで言葉を遮った。
「ん?」
「おかしくない、?」
「え?」先輩が驚いた表情を見せた。
一緒にいたいって言ってくれてすごく嬉しかった。
嬉しかったのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
「私たち距離置いてるんだよね」
私は冷静に言った。
「うん、」
先輩が頷いた。
「どうして距離置いたか分かってる?」
私は問い詰めた。
「それは、」
先輩が言葉を詰まらせた。
「咲月先輩ばっかり構って、私のこと放ったらかしにしてたからだよね」
「だからこれからはもっと心桜と一緒にいれるように」
素直に喜べない理由はこれだ。
「私のお願いは聞いてくれなかったのに私は聞かないといけないの?」
私は苛立ちを隠せなかった。
「心桜」
先輩が優しく呼びかけた。
「先輩は一度だって私の望む通りにしてくれなかったのに、私は先輩のお願いは聞かないといけないの?」
私は涙をこらえながら言った。
私が一緒にいたいって言った時は、
その願いを聞いてくれたことはなかったのに、どうして私は聞いてあげないといけないの。
「違う、俺が言いたいのは」
「ごめん、そういう事じゃないもんね。ごめんね、」
先輩は私のために…
いや、じゃあ先輩は私と一緒にいたくないってこと?私が望むからそうしてくれてるだけでって、
もう、訳分からない。
「心桜、俺、また間違えた…?」
先輩が不安そうに尋ねた。
「違う。ごめん、私のせい、やっぱり今は一緒にいない方がいいんだと思う、」
私は涙をこらえながら言った。
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