第36話
「柊先輩と何話してたの」
咲月が突然問いかけてきた。
「え?」
「柊先輩と歩いてるとこ見た」
咲月の視線が鋭く感じられた。
「何って、別に話してただけだよ」
「…一つだけ聞いてもいい?」
咲月の声が少し緊張しているのが分かった。
「何」
俺は少し警戒しながら答えた。
「どうして心桜に構うの」
咲月の質問に、俺は一瞬言葉を失った。
咲月もあの人と同じことを聞くんだ。
俺は少し考えた後、答えた。
「どうしてだと思う?」
「質問に質問で返さないでよ」
「ごめんごめん。…咲月も、彼氏がいる子を好きになるなんてやめなって反対する?」
俺は少し冗談めかして答えたが、内心は真剣だった。
「もしかして、」
咲月の表情が変わった。
「心桜ちゃんのことが好きなんだ」
「やっぱり、そんな気がしたよ」
咲月の言葉に、俺は一瞬息を呑んだ。
「ほんと?上手く隠してたつもりだったんだけどな。どこで気づいたの?」
俺は驚きながらも、少し笑ってみせた。
「昨日だよ」
「昨日?」
昨日…
なにかバレるようなことしたっけ。
「心桜に会いに図書室に行った時。ただの友達としてじゃないんだろうなって思った」
___
放課後、一緒に帰ろうと思ってたのに、心桜ちゃんの姿がなかった。
「心桜ちゃん知らない?」
「なんか図書館行くから先に帰ってって言われたけど」
図書館か…
「分かった。ありがとう」
「ちょっと待って」
咲月が俺を引き止めた。
「何」
「心桜のところに行くつもり?」
咲月の問いに、俺は頷いた。
「もちろん」
「やめときなよ」
「どうして?」
咲月が止めて来る意味が分からなかった。
「一人になりたいから私に先に帰ってって言ったんだよ」
心桜ちゃんの言葉は、他人を思いやる優しさの塊でできてるから、信用出来ない。
「心桜ちゃんを一人にして本当にいいの?」
「は?何言って、」
咲月は戸惑った様子だった。
「一人になりたいなら別に図書館に行かなくたって他にも場所はあるでしょ」
この前心桜ちゃんは結局家が一番落ち着くって言ってた。
それなのに、今、敢えて図書館を選んだってことは
「それは、そうだけど」
咲月は言葉に詰まった。
「図書館に行かないといけない理由があるんだとすれば」
きっと先輩との思い出の場所。
「あ…心桜が初めて柊先輩とあった場所、」
やっぱり。
「無意識に先輩の影を追ってるんだよ。今そんなことしても悲しくなるだけなのに」
健気で純粋で、だからこそ沢山傷ついて。
傷つけられたのに、どうしても嫌いになれなくて。
「それでも、」
「もちろん。それで心桜ちゃんの心が軽くなるんだったらそれでいいと思う。だけど、心桜ちゃんの場合はそうじゃないでしょ」
心桜ちゃんがどれだけ辛い思いをしているのか、俺は知ってるから。
誰よりも、一番近くで見てきた。
「今一人にしたら、一人で溜め込んじゃう…」
咲月も心桜ちゃんのことを本気で心配しているんだろうな。
「誰かに迷惑かけたくないって、平気じゃないのに平気なフリしてる心桜ちゃんを何度も見てるでしょ。だから行くんだよ」
今の心桜ちゃんを一人にしてはいけない。
我慢しなくていいって言った途端に泣き出した、あの時のことを、俺は忘れることができなかった。
心桜ちゃんが落ち着くまで、傍で守ってあげたかった。
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