第35話


「遥希くん、ちょっと今話せるかな」


休み時間、先輩に呼びだされた。


心桜ちゃんがいないことに少しだけ安堵しながらも、これからの話に緊張が走った。


俺は少し緊張しながらも、冷静を装った。


「話せますけど」


「ちょっと話があって」

「分かりました」


まぁ、だいたい話の検討はついてる。


きっとあの人のことだろう。


俺は先輩に続いて教室を出て、廊下に移動した。


廊下は静かで、二人の足音だけが響いていた。


「咲月をどうして一人にしたの」


やっぱり。その事だと思った。


俺は少し苛立ちを感じながらも、冷静に答えた。


「どうしてって、一人で教室に行けると判断したからです」


「最後まで責任もって咲月のこと見ててくれないと」


なんで?

必要ないのに?


「保健室の先生も言ってましたよ。大して痛くないはずだけどって」


「それでも咲月はしんどそうにしてたんだよ」


しんどそうにねぇ。


ほんとにしんどいのはどっちなのか、分かってんのかなこの人。いや、分かってないだろうな。


「それ、本気で言ってるんですか」


心桜ちゃんがしんどそうにしてても気づかないくせに、あの人のことは気にかけるんだ。


心桜ちゃんは、そんな扱い方をされてたんだ。


俺は怒りを抑えきれなかった。


「え?」


「わざと気付かないふりをしているのか、ただのお人好しなのか」


お人好し。


…というより、ただの馬鹿だろう。


俺は冷たい視線を向けた。


「何が言いたいの」


「どっちなのか知りませんけど、これ以上心桜ちゃんのことを傷つけるなら…俺も黙ってませんよ」


俺は強い決意を込めて言った。

こんな人に心桜ちゃんを任せられない。


「俺だって、別に、」


そんなつもりじゃないって?

そんなつもりなくても、そうなってんだから。


言い訳なんて聞きたくない。


最後まで聞かずに、先輩の話を遮った。


「授業始まるのでもう帰ってもいいですか」


この人と話してたらイライラする。


心桜ちゃんはこんな人のどこを好きになったんだろう…


「うん、ごめんね呼び出して」


「いえ。じゃ、失礼します」

俺は冷静を装いながらも、心の中では怒りが渦巻いていた。


「あ、ちょっと待って」


引き止められて足を止めた。


俺は振り返り、冷静な表情を保った。


「なんですか」


「最後に一つだけ聞いてもいいかな」

「どうぞ」


「どうして心桜に構うの」


あんたが心桜ちゃんを構わなさすぎるだけだろ。

そう言おうとしたけどやめた。


言っても分からないから。


言っても分からないなら、態度で分からせればいい。


「どうしてって、好きだから。それ以外に理由ありますか?」


俺は真っ直ぐに答えた。


心桜ちゃんへの気持ちを隠すつもりはなかった。


「っ、」


彼の驚いた表情に、俺は少しだけ満足感を感じた。


「じゃ、失礼します」


そうだよ。


もっと焦って、心桜ちゃんのことしか考えられなくなればいい。


そしたら…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る