第34話
「咲月?」
俺は咲月の姿を見つけて声をかけた。
彼女の表情がどこか疲れているように見えた。
「あ、柊、」
咲月は微笑んで答えたけど、その笑顔にはどこか影があった。
どうして、遥希の姿が見えないの。
「遥希くんは?一緒じゃないの?」
「うん」
彼女の返事は短く、何かを隠しているように感じた。
「なんで、」
俺はさらに問いかけた。
遥希くんは無責任な子じゃないと思ってたけど。
「保健室までは連れて行ってくれたんだけどね、その後は私一人で、」
彼女の言葉に、俺は胸が痛んだ。
やっぱり、俺が行くべきだった。
「だけどどうして、」
俺はさらに尋ねた。
「急用が出来ちゃったんだと思う、」
そう言った咲月の表情はどこか悲しそうで、俺は彼女の気持ちを察した。
直ぐに嘘を着いているって分かった。
「大丈夫?」
「うん、」
相変わらず咲月の返事は短かった。
「嘘ついてるでしょ」
俺は咲月の本当の気持ちを知りたかった。
「ついてない…」
彼女の声は弱々しく、俺はさらに心配になった。
「ねぇ、ほんとの事言ってよ。心配だから」
どうして隠すの。
「…大丈夫。自分で何とかしてみる」
彼女の強がる姿に、俺はそれ以上何も言えなかった。
「…そっか、分かったよ。足も大丈夫?」
「ちょっと捻っただけで大したことはないって。湿布も貼ってもらったから、もう大丈夫」
彼女の言葉に、少しだけ安心した。
「そっか、あの、さ、」
俺は言葉を選びながら話し始めた。
「ん?」
咲月が問いかけるように見つめてきた。
「その、心桜はわざと咲月のこと押したわけじゃないだろうから、勘違いしないであげて欲しいんだ、」
俺は心桜のことを弁護したかった。
心桜の代わりに、俺が誤解を解いてあげないと。
「もう、私だって分かってるよ」
咲月の言葉に、少しだけ安心した。
「そっか。それなら良かった…。それ、と」
俺はさらに話を続けた。
「ん?」
咲月が承諾してくれるかどうか…
「その、心桜と二人きりの時間をもっと大切にしたい」
「え…?」
彼女の驚いた表情に、俺は言葉を間違えてしまったと思った。
違うのに。
咲月を大切に思ってないって事じゃないのに。
「ごめん。言い方、悪かったよね。だからその…何が言いたいかと言うと」
俺は言葉を探しながら話し続けた。
なんて言えば分かってもらえるのかな。
「私も、暫くは心桜ちゃんのこと気にしてあげて欲しいって言おうと思ってたよ」
咲月の想定外の言葉に、俺は驚いた。
「え、ほんと?」
「もちろん。最近私のせいで二人のこと邪魔しちゃってたから」
そんな風に思ってたなんて。
「そんなこと、」
ただ俺が余裕なくて、心桜を気にかけてあげられなかっただけなのに。
「さっき心桜ちゃんに言われて気づいたの」
「え、心桜が?」
心桜なんて言ったんだろう。
「私に2人のことを邪魔する権利なんてないから」
彼女の言葉に、俺は胸が痛んだ。
「咲月、」
そんなふうに思ってたなんて気づかなかった。
「私のことなら気にしないで。一人でも大丈夫だからさ。だけど…お昼ご飯は一緒に食べてもいい?友達いなくて、」
咲月の言葉に、俺は胸が痛んだ。
「もちろんだよ」
別にずっと心桜と一緒にいたいってことじゃないんだけどな。
だけど、きっと咲月もこのままだと気まずいだろうから、早く仲直りしないと。
「良かった。早く友達作るように頑張るね」
「そんな寂しいこと言わないでよ、」
「今は心桜ちゃんと元に戻ることだけを考えなよ」
咲月…、
「うん。ありがとう」
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