第33話

心桜はいま、どんな気持ちなの…?


どうして、俺と目を合わそうとしないの。


ずっと遥希くんの背中を見つめている心桜に声をかけた。


「…心桜」


俺の事を見つけると、笑って駆け寄ってきてくれる、そんな心桜のことが好きだった。


心桜の笑顔を見るたびに、俺の心も温かくなった。


それなのに…


いつからだろうか。


心桜の顔から笑顔が消えてしまったのは。


俺の名前を悲しそうに呼ぶようになったのは。


全部


全部


俺のせいなのは分かってる。


「先輩は…私が沙紀先輩のことを押したと思ったんだよね、?」


心桜がそんなことするわけないって信じてる。


だけど、最初は思ってしまった。


もしかして、心桜が…


そう思った自分を殴ってやりたかった。


「それは、」


言葉を詰まらせた。


一瞬でもわざと押したと思ってしまったから。


「いいよ。誰が見てもそう思うと思うし」


なんて笑ってはいるけど、顔が引き攣ってる。


泣くのを我慢してる。


…俺のせいだ。


「心桜」


心桜にそんな顔して欲しくないのに。


泣かないで、俺が悪かったから。


ねぇ、もう一度笑って見せてよ。


心桜に触れようとしたその時だった。


「触らないでっ…!」


そう言って俺の手を振り払った。


驚きと痛みが胸に広がった。


「心桜、どうして」


俺はもう、心桜に触れることさえ許されないのか。


どうしてこうなる前に気づけなかったんだろう。


胸が締め付けられるような思いだった。


俺は、また選択を…間違えてしまったんだ。


「ごめん」

心桜は俯いたまま動こうとしない。


それは、何に対してのごめんなの…?


手を払ったことを気にしているのか、


それとも、


もう、俺に気持ちが無くなったのか。


「…何で謝るの、」


返事を聞くのが怖かった。


お願い…俺の勘違いであって。


「もう少し待ってもらうことになると思う」

「え?」


それって、


「先輩とどうなりたいのか、まだはっきりと決断できない」


「それって…」


俺にもまだチャンスはあるって事、?


「正直、もう分からないの。私の気持ち。どうしたいのかも、先輩とどうなりたいのかも」


目を閉じて涙を必死に我慢している心桜の顔を見て、胸が痛んだ。


「心桜、」


咄嗟に手を伸ばしてしまった。


駄目だ。


今の俺には心桜に触れる資格なんてない。


「もう少しだけ待って欲しい」


戻ってきてくれるなら、いくらでも待つよ。


「…わかった」


もう一度振り向いて貰えるように頑張るから、


もう悲しませたりなんてしないから、


俺も変わる努力をするから、


心桜以外何もいらない。




ねぇ、




もう一度、俺に笑顔を見せてよ、

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