第32話

「先生。先輩が足捻った"みたい"なんですけど見てもらってもいいですか」


俺は保健室に入ると、先生に声をかけた。


「はーい。じゃあそこ座って」


「はい、」

彼女を椅子に座らせた。


「ちょっと触るねぇ。痛かったら言ってね」

先生が彼女の足を優しく触りながら言った。


「っ、痛いです、」

彼女は顔をしかめた。


「んー腫れてはないから、そんなに痛くは無いはずだけど…とりあえず湿布貼って様子見ようか」

先生は診断を下した。


「はい、ありがとうございます、」


俺はそのやり取りを見ながら、心の中で複雑な感情が渦巻いていた。


やっぱり痛がっていたのは演技だったのか。


残念ながら、彼女は…


"黒"


みたいだ。


心桜ちゃんを傷つけるなんて許せない。


「また何かあったらいつでもおいでよ」

先生が優しく言った。


「はい。失礼します」

彼女は礼儀正しく答えた。



保健室を出て廊下を歩きながら、俺は冷たい視線を向けた。


心の中では怒りが渦巻いていた。


「…先生は、そんなに痛くは無いはずだけどって言ってましたね」


「そうだね。痛いんだけどなぁ」

彼女は軽く答えた。


その態度がさらに俺を苛立たせた。


「彼氏さんに勘違いさせたままでいるように、わざと痛いふりをして心桜ちゃんと話をさせないようにしたんですよね」


俺は鋭く問い詰めた。


心桜ちゃんが俺に説明しようとした時も、

あの人が心桜ちゃんの名前を呼んだ時も…


全部わざと…


彼女の行動が許せなかった。


「違う、私はほんとに、」

反論しようとしていたけど、言い訳なんて聞きたくなかった。


「体の弱い人が痛みに強くないわけでしょ」


「え?」

彼女は驚いた表情を見せた。


「何度もしんどい経験してるのに、ちょっと足を捻ったからってあんなに痛がる必要あるんですか?」


それに、ほんとに痛い時は声も出ない。


"痛っ" なんてあからさまに言える時点で大して痛くない。


「それは、足を捻ったのなんて始めてで、」

彼女は言い訳を続けた。


「はぁ、」

俺はため息をついた。


「…遥希くんは、どうしても私を悪者にしたいんだね、?」


「は?」


"どうしても悪者にしたい"

って言った…?


それはあんたが心桜ちゃんにしてることだろ。


「私が何を言っても否定するから、」


「それはあんたが…!」

俺は怒りを抑えきれなかった。


あんたが本当のことを話さないから。


「嫌われるのには慣れてるけど、ありもしないこと言われたら、さすがの私も悲しいなぁ」


ありもしない…


今はまだ証拠なんてないけど、


いつか…


「俺があんたの化けの皮をはいでやる」


俺は冷たく言い放った。

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