私の大好きな彼氏はみんなに優しい

第31話

心桜ちゃんを守るためには、何でもするつもりだった。

これ以上心桜ちゃんが悲しまないようにするためには、この人に釘をさしておく必要がある。

「手を出すって、どういうこと？」

彼女は戸惑った様子で尋ねた。

白々しい演技には、もう飽き飽きしていた。

「心桜ちゃんに嫌がらせすんなって言ってんの」

俺の声は鋭かった。

感情的にならずに話すべきなのに。

「そんなのする訳ないよ、」

今もさんざんしてるくせに。

直接手は出していない。だから見過ごしてきた。

だけど、この人がいつ裏で心桜ちゃんをいじめ出すか分からない。

この人がいなかったら…

心桜ちゃんが彼氏と距離を置こうとなんてしなかったはずなのに。

「…どうだか」

俺は冷たく答えた。

心桜ちゃんにはいつも笑顔でいて欲しい。

できることなら、俺が笑顔にしてあげたい。

だけど、心桜ちゃんを笑顔にできるのは、残念だけど俺じゃない。

「そっか、遥希くんは私の事嫌い、なんだよね、」

「はい。嫌いです」

弱いことを言い訳に、なんでも自分の思い通りにするところも。

天然なふりして計算高いところも。

心桜ちゃんを傷つけるところも。

なにもかも。

「やっぱり、そうだよね。私、嫌われるの慣れてるんだ。昔から体が弱くて、周りの人に迷惑かけちゃってたから、」

彼女の言葉に、心の中でため息をついた。

また自分の弱さを言い訳に。

なんにも分かってない。

「勘違いしないでください。弱いから嫌いなんじゃないです。計算高い女が嫌いなだけです」

いつ本当の彼女と話ができるんだろう。

「私、数学は苦手だけど、」

出た。

鳥肌が立ちそうになった。

「はぁ。その演技いつまで続けるんですか。見てて痛いんですけど」

こんな人が天然だなんて、心桜ちゃんは騙されてる。

「私、演技なんてしたことないのに」

表情、口調全てが嘘くさかった。

「はぁ、」

俺はため息をついた。

イライラするな。

この人に手の内は見せない方がいい。

「ごめんね、嫌だよね。私、一人で保健室行くよ」

心桜ちゃんを守るためにも、ここで引き下がらない方がいい。

「そうして欲しいところですけど。あんたがまたありもしない嘘をでっち上げたりしないようについて行きます」

ほんとに足を怪我したのかも知っておきたかったし。

「嘘なんてつかないよ、」

彼女は反論したけど、その言葉に信憑性は全く感じられなかった。

嘘をついてなかったらどれだけ良かっただろうか。

俺は心の中でそう思った。

そして、再び肩を支えて保健室まで向かった。

彼女の重みが嫌でも感じられ、イライラが募るばかりだった。