第30話
「違う…!何か勘違いしてるみたいだけど、」
俺は彼女の言葉を遮った。
言い訳なんて聞きたくなかったから。
「あの人は心桜ちゃんがわざと押したって勘違いしてたみたいだけど。心桜ちゃんのことだから絶対に倒れるぐらい強く振り払ったりしなかったはず」
心桜ちゃんがわざと押すなんて、そんなことをするはずがない。
彼氏なのに、そんなことも気づけないあの人にもイライラしていた。
彼氏だからこそ、心桜ちゃんのことを信じてあげないといけなかった。
信じて欲しかった、唯一の人。
心桜ちゃんはきっとそう思っていたはず。
…俺にすればいいのに。
…俺なら悲しませたりなんかしない。泣かせたりしない。
「私も、心桜ちゃんがわざと押したんじゃないってちゃんと分かってるよ、」
俺は冷静さを保とうとしたが、心の中では怒りが渦巻いていた。
彼女の行動が許せなかった。
「それならあの人が誤解しした時に、ちゃんと否定するべきだった」
今日のちょっとの違和感が、全てに繋がった。
「それは、足が痛くて、気が動転してて、」
骨折でもしたのかよ。
ただちょっと捻っただけだろ。
大袈裟すぎ。
「足が痛くてねぇ。自分でわざと倒れたりしてなかったらいいですけど」
俺の言葉に、彼女はショックを受けたような
…演技をしていた。
あの時、俺も一緒について行っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。
「ひどい、」
彼女の声はかすれていた。
同情する気持ちはなかった。
俺はこの人のことを信じていない。
絶対に何か裏がある。
「私が、弱いから…ちょっとの力で倒れちゃって、」
彼女の言葉に、苛立ちを感じた。
弱さを言い訳にするのは許せなかった。
「さっきから弱い弱いって言いますけど。俺には弱いことを言い訳にしてるようにしか聞こえません」
それに、、
本当に体が弱いのか。
それすらも信じられない。
「え?」
彼女は驚いた表情を見せた。
「弱いって言ったら相手が同情してくれて、自分の思い通りにできるって思ってるんじゃないですか」
俺は彼女の目を見据えた。
「違う」
彼女の声は震えた。
「強くなろうと努力はしないんですね」
俺の言葉に、彼女は涙を浮かべた。
他の人なら騙されるんだろうけど。
その涙が本当のものかどうか、俺には分からなかった。
「だって、私だって色々努力してるけど、」
努力…
してるようには見えないけど。
「どうでもいいけど。心桜ちゃんに手を出したら俺も黙ってませんよ」
俺は彼女を支えるのをやめ、彼女から一歩離れた。
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