第29話
保健室に連れて行く途中、俺は彼女の肩に手をかけて支えていた。
本当はこんなことをするのも嫌だったけど、仕方なく手を貸していた。
心桜ちゃんのために。
心桜ちゃんがちゃんと自分の気持ちを伝えて仲直り出来るように。
「ごめんね、迷惑かけて」
ただでさえイライラしてるのに。
その言葉を聞いて、さらにイライラした。
何が「ごめん」だよ、と心の中で思った。
謝る相手が間違ってるだろ。
俺じゃなくて心桜ちゃんに謝るべきなのに。
心桜ちゃんを傷つけておいて、そんな軽い謝罪で済むと思っているのか。
こんなことを思うなんて自分らしくないってことは分かってた。
「…どういうつもりなんですか」
俺は冷たい視線を向けながら問いかけた。
心桜ちゃんのことを思うと、どうしても黙っていられなかった。
「え?」
彼女の驚いた表情を見て、一瞬ためらったけど、続けた。
「どうして心桜ちゃんと彼氏の仲を引き裂こうとするんですか」
俺の声は鋭く、疑念が込められていた。
この人の行動がどうしても理解できなかった。
「私は何も、」
その言葉に、苛立ちを感じた。
どうしてそんなに無責任なことが言えるのか分からなかった。
「あなたが邪魔しようとしてる証拠はないので心桜ちゃんにはまだ言いませんけど」
俺は足を止めて、彼女を見つめながら言った。
証拠が何のに言ってしまったら、きっと心桜ちゃんは戸惑うと思うから。
「邪魔なんて…体が弱くて、柊が面倒見てくれてるだけで、」
彼女の言い訳に、眉をひそめた。
そういう事ね。
心桜ちゃんと別れさせて、あの人を自分だけのものにしたいって魂胆か。
そんな理由で心桜ちゃんを傷つけるなんて許せない
「それで?」
俺の声は自分でもびっくりするぐらい冷たかった。
「え?」
彼女は戸惑った様子で答えた。
「だから独り占めしていいとでも?」
俺は彼女の目を見据えた。
「違う、そういうつもりじゃ、」
彼女の言葉に、さらに苛立ちを感じた。
言い訳ばかりで、本当の気持ちが見えない。
「じゃあどういうつもりなんですか」
俺は問い詰めた。
この人の本心を知りたかった。
「私はただ、柊が…」
彼女の声は震えていた。
さっきから俺の問いかけに対して、まともに答えようとしていない。
彼女の言葉に、何の誠意も感じられなかった。
「それで、わざとあんなことしたんだ」
「あんなこと…?」
「心桜ちゃんが、あなたを押したように見せかけた。ですよね」
彼氏との仲を引き裂くために。
わざと。
全部この人が仕組んだこと。
今日のことだけじゃない。
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