第28話

「心桜ちゃん、ちゃんと話しできた?」


遥希くんが優しく声をかけてくれる。


私は少し緊張しながらも、微笑んで答えた。


「遥希くん、うん。ありがとう」


先輩が私のことをどう思ってるのかも知れたし、私の気持ちもちゃんと伝えた。


全部遥希くんのおかげだ。


「ならよかったよ」

遥希くんが安心したように微笑む。


「ごめんね。また巻き込んじゃって、」


昨日だって散々迷惑かけたから、これからは一人でどうにかしないとって思ったところだったのに。


昨日の今日でまた迷惑をかけてしまった。


「いいんだよ。あ、沙紀先輩のことは気にしなくて大丈夫だからね」


それってどういう…


「え?」

「本人もちゃんと心桜ちゃんがわざとした事じゃないって分かってたし」


その言葉に少し安心した。


"無理に引き留めようとしたから、怒らせちゃった"


って言葉が引っかかって、わざと押したんだって思われてるんじゃないかって思ってたけど違うかったみたい。


でも、心の中にはまだ不安が残っていた。


「良かった…。でも、怪我させちゃった、」


沙紀先輩すごく痛がってたけど、大丈夫だったのかな。心配で胸が痛む。


「軽く捻っただけみたいだから安心して」


「そっか、」


軽く…って感じでもなかったけど、遥希くんが私のために嘘をついてるのか、沙紀先輩が私が気にしないように嘘をつかせたのか、どっちかだろう。


「なになに何の話?」


咲月が元気に声をかけてくる。


「咲月おはよう」

私は咲月に向かって微笑みながら挨拶をした。


咲月は少し不満そうな顔をしている。

「おはよ。カバンあったのに見当たらなくて2人ともどこ行ってたの?」


咲月の問いに、私は一瞬言葉に詰まる。


どう説明しようかと考えながら、軽く肩をすくめた。


「色々あって、」


「何か、最近遥希とばっか一緒にいて寂しいんですけど?」

咲月の言葉に少し罪悪感を感じる。


彼女の表情から、本当に寂しそうな気持ちが伝わってくる。


「ごめんごめん、」

「先輩と仲直り出来て良かったね」


遥希くんの言葉に、私は一瞬驚いた表情を見せた。


仲直りしたと思ってるんだ。


そっか、私の気持ちをちゃんと話してよりを戻したって勘違いしてるんだ。


柊先輩とどうなりたいか分からないって正直に自分の気持ちを話しただけなのに。


「え、仲直りしたの?いつの間に?」


仲直りしてないんだけどなぁ、

なんて言えばいいのかな、


「先輩と仲直りしても、たまには一緒にお昼食べてくれる?」

なんて遥希くんが聞いてくるけど、


仲直りしてないのでもちろん食べます。


というか、仲直り…できる日なんて来るのかな。


心の中でそう思いながら、私は言葉を選んだ。


「実は、」


"仲直り、というか寄りを戻してないの"


そう言おうとしたのに、


「お前ら席つけー」


先生が教室に入ってきた。



先生の声に、私は一瞬で現実に引き戻された。

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