第5話

「柊…?やっぱり柊だ!」


誰?先輩の知り合い?

まさかとは思うけど、この子も先輩のこと好きとか言わないよね…


「春香?久しぶり」


名前で呼び合うぐらい仲良いんだ。


私と同い年ぐらいか?いや、年下か?


「…え、横にいる人だれ」


見るからに嫌そうな顔。


あぁ、嫌だな。

私の勘はよく当たる。


この子も、先輩のことが好きなんだ。


ほんと、先輩がブッサイクになればいいのに。

それか、私にだけ優しくしてくれればいいのに。


「ん?あ、心桜と会うのは初めてだよね」


挨拶は、しておいた方がいいか。


「初めまして、心桜です」


「心桜は俺と付き合って『今度お家来てよ。ママもパパも柊に会えるの楽しみにしてるし』あぁ、分かった」


話を遮るほど、彼女がいるのが嫌なのか。

どうでもいいけど、なんで行こうとしてるの。


「今時間ある?一緒にご飯食べようよ!」


今…?私の事見えてないのか?

どっからどう見てもデート中なんですけど?


「デート中だから、また今度ね」


流石に断ってくれた。良かった。


「駄目、ですか…?そうですよね、私みたいなのが柊の近くにいるなんて、気に食わないですよね」


ははーん。

私を悪者にしよう作戦ね、

駄目と言うことで"気に食わない"を肯定してしまうことになる。


「私は別に気にしないけど、」


「ほんとに大丈夫?」


初対面だから気まずくなるんじゃないかなって、心配してくれてるんだよね。


まぁ、もっと他に気を配るべきことがあると思うんだけど。


「大丈夫だよ」


先輩の事だから、断って傷ついてないかなとか、今日一日考えそうだし。


ご飯食べるくらい、別にどうってことない。はず。


「心桜は何食べる?」


「んっと、私は…」

オムライスも食べたいけど…パスタも食べたい


「どれとどれで迷ってるの?」


「えっと…これと、これ」

「じゃあ、俺と半分ずつにする?」


「え、いいの?私に合わせなくても、先輩が食べたいの食べていいよ?」


こういう時、先輩はいつも半分こしてくれる。


「ううん、俺も両方食べたかったし」

「ありがとう」


あ、春香ちゃんがすごく悔しそうな顔してる。


「春香も好きなの食べな」

「柊の奢り?」


「もちろん。春香にお金使わせる訳ないじゃん」

「やったー!柊大好き」


「ありがとう」


きっと先輩が思っているより春香ちゃんの好きは重いものなんだよ。



「そういえば、柊ってば好きなタイプ変わった?」


なんっか嫌な言い方。


「そう?」


「そうだよ〜昔付き合ってた彼女さんは大人っぽくて…あ、ごめんなさい。別に心桜さんが子供っぽいって言いたいわけじゃないので、勘違いしないでくださいね」


わざとらしい。

ごめんなんて思ってないくせに。


「分かってるので気にしないでください」

そんな挑発に乗ってたまるものか。


「心桜さんのどこが好きなの?」


「心桜は…自分を後回しにしてでも、相手の事を想える優しいし子なんだ」


嬉しいけど…それは先輩、あなたの方ですよ。


「へー…」


めっちゃ睨まれてるんだけど。


先輩は気づいてないんだろうな。この子が先輩の事好きだって。


「心桜、さっきから手が止まってるけど、口に合わなかった?」


「そんな事ないよ…」


料理が美味しくないんじゃなくて、なんか食欲無くなっただけ


「そう?ならいいんだけど」


「ねぇ、柊」


「ん?」

「今度私ともデートしてよ」


何を言い出すんだこの小娘は


「今年受験生じゃなかったっけ?受験勉強が終わったらいつでも遊べるんだから今は受験に専念しないと」


ということは、私の一つ下か…


「先生が今のままなら充分受かるって言ってくれたから大丈夫だよ〜それに、1日遊んだぐらいでどうって事ないよ。息抜きも必要だし?ね、いいでしょ?映画でも見に行こうよ!」


「それもそうだね。いいよ、行こっか」


いいの?え、いいの?私、彼女だよね?


この前山口先輩が二人きりでって言った時は断ったのに、この子とならいいの?


さっきデートって言ってたけど、他の女とデートしちゃうの?浮気だよね。


「心桜さん。今度、柊の事借りてもいいですか?」


借りる…?別に先輩は物じゃない。


「先輩、私先帰るから。あとは2人でどうぞごゆっくり」


もう我慢の限界だ


「え、心桜?急にどうしたの」


「急じゃない。嫌だから」

「え?」


「春香ちゃんと仲良くしないで欲しい」


「どうして、」


どうしてか、ほんとに分かってないの?


「春香ちゃんは先輩のことが好きなんだよ。だから、私の事を敵対視してるし。さっきから、先輩と私を別れさせようとしてるようにしか見えない。…なんて言ったところで、先輩は優しいからきっと分かんないんだろうけど。とにかく、ここにいると息が詰まるから帰る」

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