第39話・大賢者の決別

「倒したわ!」

 今、一つの目的に向かって強めの討伐依頼を何回も受けている。

 そう、母親と出会うためだ。そして、決別するためだ。

 人の影がこちらに向かって歩いてくる。あの人影は母親じゃないか?

「お久しぶりね。」

 よし、来た。真っ白な肌に、濡れ羽色の髪に、濡れ羽色の瞳をした30代後半ぐらいに見える女性はものすごく見覚えがある。

「ええ、お久しぶりね。」

「あなたは、行かないの?」

「何のことでしょうか?」

「次の世界へ。」

「無理です。現代日本に帰るから。」

「っ!」

 現代日本の存在を知ってしまったか、と言いたげね。

「あなたの持ち物から帰ったのですよ。残念でしたね、退路は別口で用意すればよかったのに。」

「・・・・お前にはよくしてやったのに、恩知らずな娘だな。」

「よくしてやった?いつ、どこで?」

「修行させてやったじゃないか!どこまでも恩知らずだな!」

「その修行とやらは誰がやりたいといったの?」

「は?私がやりたいからやらせたんだよ!」

 私は怒りの表情の下に張り付けた、微笑みの表情をしていると思う。精一杯笑うが、笑い切れていない。私の不器用さがよく出た表情だと思う。実際にこの”微笑み”を見たものはビビり散らかしてなんでもいうことを聞くというのだ。容赦していないときに見せる”微笑み”だと思う。

「私が修行をやめたいからこそ私がした工夫をご存じで?」

「は?お前修行をやめたかったのかよ!」

「知らないのね。いつも私を監視していた癖に、呆れる。」

「それはお前が修行をさぼるからだろ!いつも監視していないと楽に走るお前のせいなんだよ!」

「これまでに、依存性の高い薬を飲んで現実逃避したり、あなたたちを殺そうとして失敗したり、をしてまで逃れようとしたわ。」

「自殺、未遂・・・・?」

 ちなみに自殺未遂の話は本当だ。この世界で自殺未遂をしたわけではないけれど、結局魔法がかかっていたように寸前で傷が回復したようで、死ねなかった。むしろ、その時死ねなかったことが今では幸運かもしれないのだが・・・・論じるのはまた今度にしよう。

「そう、あなたがやりたかったばっかりに当の本人が死ぬ決断をしたの。そして、せめて友達を作って癒しをもらおうと沢山の人を仲間にしたわね。あなたはその人たちをどうした?」

「それは、位の高いあなたに近づくなと追い払い」

「いや、そんな言葉では生ぬるいわね。あなたは私たちの友達を全員殺したわよね?」

「・・・・」

「そんなことをして、親子だからって本気で許されると思っていたあなたの頭の中を覗いてみたいわ。どうなの?反省してるの?」

「・・・・わかりました、最初の土台ぐらいは作っておきます。」

「うん、まっったく反省していないわね。私たちにとって百害あって一利なしなのは伝わってきた。じゃあ、さっさと輪廻しなさい。」

「え?」

「ティポバ!」

 すさまじい爆発、あふれる

 すさまじい力を浴びて消えていく30代後半あたりの女性。

 あの女に”詠唱強化+MP消費強化+意思爆発+限界突破”という前と変わらない・・・・どころか、前より強くなった魔法を食らわせた。

 前と一つ違うところがあるといえば、あの女が不死になる原因を作った装置がなくなったことか。あれがあったからどんなダメージを食らわせても無傷で戻ってきていた。

 何十年も苦しみを与えてきたあの女は無事に死んで、やがて輪廻した。


「え、帰っちゃうの?」

「うん、帰ろうかなって。目的は達成したし。」

「そっか・・・・」

 現代日本に帰るから帰る準備をしなさいと芽衣子ちゃんに伝えたところ、こういう反応をされた。もともとほったらかしにしてはいけない状態だったから、決別という名目でこの世界に来ていたのだし、芽衣子ちゃんはこのことを知らなかったわけだから、芽衣子ちゃんの反応も間違ってはいないんだけど。

 とりあえず、芽衣子ちゃんが殺されなかったという安心感と、あの女に二度と縛られないという自由を感じて胸がいっぱいになっている。

 胸を占めることと言えば・・・・

「ん?どうした?」

 あ、いつの間にか玲仁君の方を見てしまったらしい。私の恋心を伝えたい・・・・告白したい気持ちでいっぱいなのだが、相手は私を好きかわからないし、もし相手が異性と意識していなかったとしたら(私の年齢的におかしくないのだが)、ショックの受け具合は計り知れないのでやめておいてる。

「なんでもないわ。」

「・・・・そうか。」

 ああ、人の心を見るアビリティでもあればな。そうだ、次の魔法の開発は”人の心の声を聞く魔法”とかにしようかな。帰ったら魔法理論をチェックしよう。

「とにかく、みんな帰る準備をしてね。」

「「「はい!」」」

 この四人パーティーってバランスもいいし、いいパーティーなのかもしれない。何かあったらまたこの四人で遊ぼうかな!


 数日後・・・・

「みんな、準備はできた?」

「「「できた!」」」

「じゃあ、帰りましょう!」

 ~統御神様、次元の狭間に通してください~

 あたりに白い光が巻き起こる。こうして、四時間ちょっとかかる帰り道に足を踏み入れたのだった。


 あとがき

 ここまで読んでくださってありがとうございます。少しづつ変えているところもあるので、読み返してくださると幸いです。

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