第37話・大賢者の(好きな人の)私物

「玲香、どうするの?」

 どうするとは、あの女・・・・実の母親をどうするかだろう。しかし、これに関しては私の出生の話を聞いても全く変わらなかった。

「決別して平和に暮らすことにするわ。あの女の始末は平和的解決とは言わずにね。」

「・・・・そうなの?」

「ええ。だって積年の恨みは出生を知ったぐらいで晴れないし、母親としての関係を築かずにお姉ちゃんに任せてほったらかしにしたのはあの女よ。まあ、確かに昔の脳みそでこの話をされたら変わったかもしれないけど、今の中身はもうれっきとした大人だもの。変わるはずがないわ。」

「・・・・お姉ちゃん、安心したわ。お姉ちゃんの元を離れずにいてくれて。あの母親の元にいかなくて。」

「今さら行くわけないって。」

 お姉ちゃんは行くわけないと思えなかったから話さなかったのだろう。でないと何十年も秘密にするわけがない。

「ふわぁ・・・・おはよう・・・・」

 重い話をしていたところに芽衣子ちゃんと玲仁君が来たのは正直ありがたい。芽衣子ちゃんは重い空気をこれでもかと取っ払ってくれるからね。

「玲香ちゃん、おはよう。なんでそんなに暗い顔をしてるの?」

「大した話じゃないよ。それよりこれからの作戦を話しましょう。芽衣子ちゃんにもわかりやすいようにちょっとRPG風に話すわね。」

 ※しばらくの間、心の解説もRPG風に話すことにします。

「まず、私たちの中で目的があるの。それが私たちの母親とエンカウントして倒すことなの。」

 しかし、問題はそこではない。なぜなら・・・・

「今までのパターンからして、強い敵を倒しているところに現れることが多いわ。」

 そう、エンカウントのパターンは読めている。何が問題かというと・・・・

「問題は戦力的に出会っても勝てないってことね。今の状態でエンカウントしても負けイベントになる未来しか見えないわ。」

「じゃあ、どうすればいいの?」

 疑問に思っている芽衣子ちゃん。

「まず、芽衣子ちゃんは討伐依頼・・・・クエストに参加しながら、訓練すればいいと思うわ。今の芽衣子ちゃんが強くなるのに必要なのってレベル上げが主だから。」

「クエスト・・・・なるほど!」

「次に玲仁君は同じく討伐依頼を受けてレベル上げかな。レベルってどうしても実践経験を積まないと手に入らないものだから。たとえそれが前世でLv132まで上げていたとしてもね。」

「そうだね。ていうか、俺の死に際のレベルとかよく覚えてたね。」

 まあ、あの時点で私は玲仁君のことが大好きだったんだと思う。ローレンス様は戦いの名家の出身で、なおかつ13歳に家を出て、そのあとは一生戦い漬けの生活だったし、恋愛に触れることなんてなかったから気づいてなかった可能性の方が高いけど。ローレンス様は私のことをどう思っていたのだろうか。

「それで、行きたい場所があるの。芽衣子ちゃんは任意にしておくけど、行ってみない?」

「え、行きたい!どんな場所なの!?」

「エルフの森なんだけど、行k」

「え、すごい行きたい!」

 食い気味だな。まあいいや。ローレンス様もとい玲仁君に見せたいものがあるからね。


 転移魔法を使ってエルフの森にたどり着いた。あたり一面森で自然にあふれた集落という現代日本にはないファンタジーな光景に、芽衣子ちゃんははしゃぎまくってるようだ。

 ちなみにここは私たちがこの世界に来るときに”降り立った”場所でもある。

 降り立つという現象は、後天的異世界転移で初めて来る世界に来たときに完全ランダムで降り立つことになる。これは場所を指定してないときに起こる。

 完全ランダムでも大丈夫とか思ってたあの女だったようだが、魂が凝縮されたような液体に落ちて中毒症状が出かけたときにはさすがにダメだと思ったようで、その後はどこかの町に降り立つようになった。まあ、あの世界はいろいろとイレギュラーなんだけどね。本当に、ちょっと気絶するぐらいで済んでよかった。

 目的地の家についたので、ノックをする。

「あ、ライラちゃん!」

「今まで守ってくれてありがとうね。部屋の中に入っていい?」

「もちろん!」

 目的のブツを守っているエルフの友達に頼んで中に入らせてもらう。その間も芽衣子ちゃんははしゃぎっぱなしなのだが、次の瞬間には玲仁君も驚くことになるだろう。私だってこれはストーカー気質が出ただけだって自覚してるもん。

 部屋の中には、ローレンス様の服や剣などの私物が大量に置いてあった。

「え、玲香?」

「は、はいなんでしょうか。」

「とっておいてくれたの?」

「うん、そうですよ。」

 私はストーカー気質だって責められるんじゃないかってドキドキしてる。今回は私が全面的に悪いし引かれてもしょうがないけど、否定されたくない。

「じゃあ、ブラッドソードも取っておいてくれたの?」

「は、はいそうです!」

「よかった!」

 なんか安心してる。とりあえず私の心は責められなくてよかったと安堵している。

「いろいろ回収してもいい?」

「うん!」

 私物を取っておいた理由は、正直私の心の整理がつかなかったっていうのも大きい。だから、あの女を倒して自由になる前提で”私の心の整理がつくまでこれはとっておいて”と友達に言ったのだ。

「その、引いてないよね?」

「え、全然そんなことはないよ?それより嬉しいっていう気持ちの方が強いかな。」

「そうなの?」

「うん。これとか懐かしいね。」

 そう言って手に取ったのはブラッドソードと呼ばれる特殊な剣だ。

 ブラッドソードというのは、特殊な魂が宿った特殊な剣で、発動条件が解明されていないうえに極めればかなり切れ味もよくなるので、極めて価値が高いとされる剣だ。

 玲仁君もといローレンス様の場合、冒険をしているときに気づいたから、思い出としても価値が高いと思う。

「回収できるものは回収するね。」

「うん!」

 いろいろ持っていくことにしたようだ。私としても、気持ちの整理がついた気がする。

 私は軽い気持ちで帰りの転移魔法を唱えた。

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