第36話・大賢者の出生
温かい朝だと思って目を開いたら、玲仁君が目の前にいた。
「わあ!」
どうやら私、抱きついて寝ていたみたいだ。体勢的に私から抱きついたみたい。昨日の記憶がないからどうしてこうなったのかがわからない。
そういえば私、MP切れを起こして倒れたんだっけ。よく見たら右手の人差し指にミスリルの指輪がついている。お姉ちゃんがつけたのだろうか。ありがたい。
「玲香?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。」
「よかった~!」
玲仁君は心底安心したような表情でそう言っていた。私、心配してもらえたんだな。正直MP切れなんて何十回起こしたか覚えてないぐらいに繰り返してるのに。
しばらくしたら落ち着いたようで、すごい質問をしてきた。
「玲香って俺のことが好きなの?」
「え!?」
「え、て気絶してた時に言ってたけど。」
なんで言っちゃうの!?私のバカ!ここは男性として、ではなく人としてということにしよう、そうしよう・・・・。私と玲仁君の年齢的に犯罪だし。
「まあ、人としては好きだよ。」
「そっか・・・・。俺も玲香のこと大好きだよ!」
落ち着け、落ち着け玲香。私が人として好きだって言ったから玲仁君も人として好きだって返してくれただけだ。決して玲仁君は私を女性として好きだと言っているわけではない。表情とか声色でわかるだろ、落ち着け玲香!
とりあえず起き上がって部屋を出ることにした私だった。
「あ、玲香おはよう。」
いつも談笑をするテーブルに来たらお姉ちゃんがいた。
「おはよう。今回の旅ってどこで終わらせる?」
「うーん・・・・玲香はどうしたいの?」
「とりあえずあの女と完全に決別する。私の出生がわかるなら知りたいし、そのうえであの女が作った不死の空間を破壊したうえで倒すわ。」
「・・・・玲香は出生を知りたいの?」
正直気になってはいた。なぜ、お姉ちゃんが語りたがらないのか、あの女はなぜ母親と騙っているのか。気になることは気になる。
「そうね、できることなら知りたいわ。」
「その出生がどんなに鬼畜だったとしても、黙って聞いてられるの?」
「・・・・できる限りは努めるわ。」
私にも限界というものはあるから、できる限りにはなるけど。
「わかったわ。それなら話すよ。」
お姉ちゃんは深呼吸したあと、切り出した。
「私たちが生まれた家永家は”強い光属性”を宿しているって話したことは覚えてる?」
「うん、覚えてるわ。」
家永家は”光天使”の子孫だから強い光属性を宿している。光天使の子孫だから寿命が長くなるとも聞いた。それに、本来人間では身体がついていかない強い魔法を使っても普通についていくとも。だからこそ特大ティポバを放ったわけだが。
「これ自体は合ってるわ。ただ、天使の血がすごく薄まって、私たちの実の母親のころには”強くも弱くもない光属性”になっていることを除けばね。」
この”MPの属性”は1~5の数字で表されるのだが、普通の人間が”光属性2”ぐらいで、これは属性の強さとしては弱いほうだ。
私の属性が”光属性3.91”で、これは人間を逸脱している強さだと言っていい。ちなみに純血の光天使の一般的な属性は”光属性5”だ。まあ、天使に寿命はないんだけど。ちなみにお姉ちゃんの属性が全く同じ”光属性3.91”で、あの女・・・・美玲の属性が”光属性2.9”ぐらい。まあ、あの女の方は微妙だね。
「まあ、結論から言わせてもらうと、家永美玲という女は実母です。これがまあ前提にしないと難しいから言わせてもらいます。」
「あ、そうなの?」
「まあ、だからって母親だと思う必要はないと思うけどね。私たちの出生をここまで鬼畜にしたのは間違いなくあの女だし。で、実母は光属性が弱くなっていくことを危惧して実母が19歳のときに二人の男性と付き合うの。でも、どっちも愛してなかったみたいだけどね。」
うん、二股女だ。しかも両方愛してないって悪女にもほどがあるだろ。
「のちに結婚した片方はATM用で、もう片方はいい遺伝子を残すためっていうのが実母の目的だったの。」
「遺伝子?」
「うん、光天使の末裔のうち一人を当主にする風習があるんだけど、自分の光属性が弱いから、娘に託すことにしたっていうのが動機ね。のちに結婚したほう・・・・お父さんと付き合ってた理由はお金がないと生きていけないから、らしいけど。」
「それであの女の手下は当主様って呼んでたの?」
「あの場合は手下のほうが妄想で当主ってことにしてそう呼んでたみたいだけど。」
そうなんだ。じゃあ、実際には当主になることはできなかったのか。
「続きを話すね。あの女の両親には”才能がないから”と理由で反対されるけど、いい遺伝子を残すために別の男と付き合ってるって話したらあっさり許可が出たらしいわ。私が初めてこの話を聞いたとき心の中で”それでいいのかよ!?”って突っ込んだけど。」
ほんとそれ。孫ができたら托卵してようが誰でもいいのかよ。
「で、数か月後に妊娠したけど、流産したわ。」
「え、そうなの?」
数か月後にできた子がお姉ちゃんっていう話かと思ったのに。
「この世界の魔法理論第四章15条は覚えてるよね?」
「うん、覚えてるよ。」
「それがこの世界でも通じるのよ。」
「うそ、あの女はあの理論上だけの話になることを実行したっていうの!?」
魔法理論第四章は”魔法に関する遺伝”という話で、第四章15条の内容は、”同じ属性で同じ属性の強さの生物が交わったとき、子供の属性の強さが1強くなる”という嘘みたいな法則だ。机上の空論な分にはいいのだが、実際に起こすとなると厳しい部分がある。
まず、細かく測れないだけで属性の強さはもっと細分化できると言われており、仮に測ったときの属性の強さが一致したとして完全に一致することは”血縁上でない限り”ほぼ無理だからだ。
それに血縁上と言っても、遠い親戚程度ではまず一致しない。はっきりと”血のつながった兄弟”じゃないと無理なレベルだ。
つまり、これを発動させるには血族婚をする必要があり、 故に禁忌とされてきた世界が多い。
それに、あの女の属性も人間にしてはかなり強い部類に入る。私たちが人外レベルなだけだ。発動させるのは無理がある。
「うん、実際の私たちの光属性の強さを見ても発動はしたと思うわ。」
「だから属性の強さが違ってもおかしくないってこと?」
「そういうことね。」
「で、肝心の属性の強さが同じの人はいたの?」
「いたみたいね。相手は同じ天使の末裔の男の人ね。兄弟ではないわよ。実際に会ったことがあるのだけど・・・・玲香に興味があったとしても会わせる気はないわ。」
一瞬佑太お父様のことを考えてしまってごめんなさい、お父様。
「まあ、世界をひっくるめると2人は全く同じ属性の人がいるのではないかっていう明らかに胡散臭い噂もあるものね。」
私は呆れた声色で吐き捨てた。さすがに信じられない。現代日本にはドッペルゲンガーという怪談があるらしいが、それ以上に信じられない。あの女の明らかにおかしい現象を起こしたのを目の当たりにしたお姉ちゃんも呆れているようだ。
「まあ、それもあるわよね。あの女の場合は相手を見つけたみたいだけど。で、この現象を起こそうにも弊害があるのよ。」
「弊害?」
さすがにそこまでは知らない。だって私の情報って魔法理論として理論上あり得るぐらいの話だったからね。
「子供ができたとしても妊娠初期に極めて流産しやすいのよ。」
なるほど?単純に生まれるまでが大変なのか。
「夫と一緒に行くと流産が多くて別の検査をされる可能性があるから、安定期まで気づかなかったフリをするのがあの女の常套手段だったみたいね。避妊してたからありえなかったとか言ってね。で、結婚一年目のときにようやく私が生まれたらしいわ。」
「流産しまくるのにしては生まれるのが早いわね。」
「まあ、かなり早いペースで妊娠と流産を繰り返してたんじゃないかな。お姉ちゃんの私が生まれた後、あの女はあと一人子供を産むことにしたわ。だから、私が生まれてから10年後に玲香が生まれた。」
あ、私のほうは10年かかってるのね。それにしてもそんなに浮気相手の子供を妊娠するとは、尻軽が過ぎるだろ。私はこうはなりたくないものだ。
「ある日、私が深夜に起きたらあの女と浮気相手が性的・・・・まあ、その年齢ならわかるよね。最初は悩んだけど、性的行為を見せるのも虐待というのを聞いて日記を書いていたのよ。」
そうなんだ。それが何か関係あるのだろうか。
「で、あの女が安定期に入ってから”また妊娠しちゃったみたい。”って言ったの。最初のを見ちゃってから毎回のように深夜に起きて目撃するようになってしまったわ。だから、毎回のように日記に書いていたんだけど、その日記の内容と、あの女が愚痴って言っていた生理の内容を基準に照らし合わせたわ。今考えれば変態なんだけどね。そうしたら、時期的にどう考えてもお腹の子供は浮気相手の子ってことがわかったわ。それをお父さんに提出したら、お父さん別れるって言って、結局親権があの女にわたったっていうオチよ。」
結局お姉ちゃんも私も托卵の末にできた子供だったってことか。まあ、私のお父様とお母様は佑太お父様と祐奈お母様だからね。今さら気にしないよ。
「そのあと、玲香が3歳の誕生日になった日に、あの女は急に光を起こして、こう言ったの。”修行しなさい”って。それで異世界に放り込まれたわ。その結果が今の状態よ。」
あの過酷な日々はあの女にとっては修行の範疇だったのか。ますます意味がわからなくなってきた。本気で死にかけたこともあったし、そんなときにあの女の援助は一切なかった。それに、現代日本にいて修行しないといけない意味が一切わからない。それを成人する年月通り過ぎておばあちゃんになる年齢まで続ける意味も。
真相を聞いても意味は一切わからなかった。
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