第35話・最強騎士の感情

 気絶して消えていく女性と目の前で倒れていく玲香。目の前で起こった出来事が理解できずに呆然としていたのだが、玲香が倒れたところで我に返った。

 消えていった女性はどこかに転移していた。おそらくあの不死の空間に飛んだのだろう。玲香は・・・・MP切れだ、多分。魔法に詳しくないからわからない。

「すみません春香さん、MP供給をお願いします。」

 MP供給とは何らかの方法でMPを他人に渡す方法らしい。方法は確か、MP吸収魔法を反転(?)させて他人に吸収させるらしい。ちなみに普通の人が玲香にMP供給をしようとすると、玲香の光属性(?)が強いとかなんとかでMPに光属性を込めないといけないとかなんとか言ってた気がする。

「ちょっと待ってね。」

 春香さんはそう言って無色透明のミスリルの指輪を取り出した。色から察するに高品質のものだろう。向こうの世界の宝石に例えるなら透明なダイヤモンドみたいな色をしている。

 春香さんはその指輪を玲香の右手の人差し指にはめた。

「これでしばらくしたら目覚めるはずよ。」

「ええと、解説お願いします。」

「とりあえずケンドリック家のお屋敷に戻りましょう。そうしたら話すから。」

「わかった。」

 玲香の意識はなさそうなので、横抱きにして持ち上げる。俺たちは黙ってケンドリック家・・・・俺の前世の生家へ歩き出した。


 屋敷についたけど、玲香が目覚める気配は一向にない。このまま目覚めなかったらどうしようと不安になるほどだ。

 とりあえずいつも談笑をしている丸いテーブルにある椅子に座る。いつもは定位置にそれぞれ4人が座っているのだが、玲香が目覚めていないので横抱きにして俺が支えておくことにする。

「解説するわね。まず、この指輪はミスリルの指輪よ。」

 まあ、それはいくら俺が脳筋とはいえ取り巻く魔力とかでわかる。ただしミスリルの指輪がどう作用してMPが回復するかはわからないが。

「で、この指輪には事前に玲香本人のMPが入ってるわ。」

「玲香ちゃんの?」

「うん、事前に玲香がストックしていたの。MPが足りなくなったとき用にって。そのうえで、この指輪には従来のMP供給用の魔法がかかってて、それで供給に成功してるってこと。玲香のMPはかなり特殊だから、こうでもしないとMP切れを起こしたときに大変なのよ。」

「なるほど。ちなみにその指輪のMP残量ってどれぐらいかわかりますか?」

「玲香に聞いた話だと、毎日一定の量をためていたらしくて、持ってみた感触だと玲香のMPが満タンの時のMP量より多いと思うわ。」

「ええ!?」

 玲香のMP量って”人外”と言われるほど膨大なのに、玲香のMP量より多いって・・・・その指輪はすごそうだ。見た感じただの甲丸リングにしか見えないんだけど、ミスリルの質がすごいいいんだろうな。その分値段も大変なことになっているのだろうが。

「まあ、放っておけば目覚めるわよ。だから安心して?」

「わかりました!」

 芽衣子さんの方を見ると実感がわいてなさそうな顔をしていた。そりゃあそうだよな。異世界に行ったら急に友達が倒れたんだもんな。

 玲香の顔を見ていたら、玲香の目がうっすら開いた。

「・・・・大、好き・・・・」

 そう言ってまた気絶した。さっき大好きって聞こえたけど、それはどういう意味の大好きなのだろうか?意識がはっきりしたら問い詰めよう。

「まあ、このぐらいだったらだいたい数時間ぐらいね。しばらくは意識が戻らないけど、だんだん意識が戻る感覚が狭まってくるから大丈夫よ。もうそろそろ寝る時間だし・・・・こんな日ぐらい、寄り添って寝たらどう?」

「え!?いや、ちょっと、玲香ちゃんの年齢も年齢なので・・・・。」

「大丈夫、誰にも言わないから。ねえ、芽衣子ちゃん?」

「うん、玲仁君の不利になるようなことはしないから。」

 そういう問題じゃないんだよ、春香さんに芽衣子さん。でも、無言の圧力がかかっている。

「・・・・わかりました。」

 この二人は折れなさそうだし、了承してツインの部屋に泊まらせてもらえればいいや。


 そう思っていましたが、ダメでした。春香さんがそんな爪の甘いことをするはずがなかった。

 事前に部屋を決められていて、部屋の真ん中にはダブルベッドが置いてあった。ソファーの類もない。つまり、一緒に寝ろってこと?13歳の女の子と?絶対やだ。今さらだけど、そういう性癖ないからね?

 まあ、今さら部屋を変えるのも無理そうなので寝るしかないようだが・・・・寝ればいいの?13歳と20歳は完全にアウトだと思うよ。ベッドがそれなりに大きいので、玲香を端に寝かせて、俺はもう片方の端で寝るしかないか。

 ベッドの端に玲香を降ろして俺はもう片方の端に寝る。

「・・・・おやすみ。」

 大好きに対する返事は成長してからだよ。じゃないと俺は犯罪者になっちゃうからね。

「・・・・玲仁、大好き・・・・。」

 そう言って後ろから俺に抱きついてくる。すぐさま引っぺがしたけど、懲りずに抱きついてくる。仕方ないので受け止めるが、13歳にして大人の身体になっている玲香は成長が早いな、と思う。

 疲れていたのか、俺もすぐに寝落ちした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る