第32話・大賢者は友達を連れて転移する

「じゃあ、行きましょう!」

 あれからどれだけ危険かを伝えたが、芽衣子ちゃんは折れなかった。まあ、生粋のファンタジーヲタクに伝えても、焼石に水だったかもしれないと今では思うけど。


 途中何かが通りかかった気もするが、異世界には無事につくことができた。あ、異世界って言ってもN-9ね。異世界って言っても沢山の世界があって、沢山の世界に自由に行けるのが後天性異世界転移の最大の利点だから。

「これから、修行する場所に行こうと思うんだけど、いいかな?」

「いいよ!」

「じゃあ、早速向かおうか!ここから徒歩で半日はかかるし。」

「・・・・わかった。」


「ゼェ・・・・ゼェ・・・・」

「このぐらいでバテる体力で大丈夫?」

「大丈夫だと思うわ、多分。」

「はいはい。あと、通訳はちゃんとやるから大丈夫よ。」

「わかった。ゼェ・・・・ゼェ・・・・」

 頼むから現実を見てくれ。え、特大ブーメランが飛んできてる、だって?何それ、そんなものはないよ?

「あ、ついたわよ。」

「わあ・・・・!」

 来たのはいつもお世話になっているケンドリック家の修行所なのだが、名家のお屋敷だからか芽衣子ちゃんは圧倒されていた。

「入るわよ。」

「は、はい!」


 当主様に事情を説明したら、やっぱり受け入れてくれるだそうだ。ついでに手合わせで魔法剣士が暴れてるからなんとかしてくれって言ってた。

 それにしても魔法剣士っていうのが嫌な予感しかしないんだよ・・・・。と思って入ってみると嫌な予感は案の定的中していた。

 手合わせが行われる闘技場はかなり広い場所で、石造りの広くて物々しい場所だ。見る人が見たらかっこいいのかもしれないけど。実際に芽衣子ちゃんが入ったら目を輝かせてたし。

 暴れていたのは濡れ羽色に濡れ羽色の瞳をしていて私に目鼻立ちが似ている女性だった。

 当主様から許可が出てるって言ったらすぐに通されたあとに、すぐに戦うことになった。

「ブロンティバ!」

 ちなみにブロンティバは上級雷魔法で、初級雷魔法がブロンティアで、中級雷魔法がブロンティナだ。

 雷を浴びた相手は力をなくして倒れていき・・・・まあ、見てて気分のいいものではないか。

「アナサス」

「うーん・・・・え、玲香?」

「お姉ちゃんよね?」

 嫌な予感っていうのは”お姉ちゃんが暴れてないか”という予感だったけど、見事に的中していた。

 前に説明したかもしれないけど、私のお姉ちゃんの名前は家永春香いえながはるかで、この世界では魔法剣士なんだよね。私より10歳年上なので、私と同じぐらい年を取っていたと仮定したら今年23歳ということになる。

 最後に会ったときには、日本女子の平均的な成長よりも成長が遅れていたというのに、私より背が高いようだ。ちなみに私は日本人の成人女性よりも低い148.1cmなのだが、これ以上伸びそうにないんだよね。まあ成長期だから伸びると信じたい。

「ねえ、今玲香は何してるの?」

「友人たちとここで修行したあと、旅に出ようかなって思ってここに来たよ。」

「じゃあ、修行の旅に私もついていっていい?」

「後で二人に聞いて二人がいいっていうならいいよ。」

「じゃあ、あとで紹介して?」

「うん。」

 そのあとはいろいろやってたけど、特に重要ではないことなので省くね。


「この人が玲香ちゃんのお姉ちゃん?」

「家永春香っていいます。」

「こんな綺麗な人が私たちに何の用ですか?」

「敬語はいいわよ。」

「春香さん、何の用なの?」

「あなたたちの旅に私を連れてってほしいの。」

「え、ぜひ来てよ!」

「俺もいいよ。」

「本当!?じゃあ、明日から一緒に訓練しない?」

「え、いいの!?」

「いいわよ。じゃあ、明日から一緒に頑張りましょう!」

 なんか仲間意識が芽生えてる様子だけど、お姉ちゃんってLv133のカンストだよね?頑張る要素がどこにあるの?

「器用貧乏から最強になるってこと!」

「え、そうなの?十分強いと思うけど・・・・」

「いいから。」

 どうやらお姉ちゃんは現状に満足していないようだ。気持ちはわかるけど、無理しないでほしい。

「じゃあ芽衣子ちゃん、あとで私の部屋に来て?」

「は、はい!」

「お姉ちゃん、弱いものいじめはダメだよ?」

「弱いものいじめをするつもりなんてないよ。」

「はいはい。」

 この会話は一種のいじりなので、実際にお姉ちゃんが弱いものいじめをしたことはないんだけどね。

「芽衣子ちゃん、今日は適性検査があるから3Fの適性検査室に行ってね。」

「え、適性検査って何!?」

「・・・・適性検査をするおっちゃんに聞きなさい。」

「わかった!」

 芽衣子ちゃんは走って階段を上がっていった。


 @***@


 ドアをノックする音がする。

「入って。」

 黒檀こくたんと呼ばれる赤を帯びた黒をした髪と瞳をした美少女が部屋の中に入ってきた。しかし、何もおかしいことはない。実際に部屋に招いたのだし。

 ただ、相手にとっては突然出会って突然招かれたのに、よく来たなとは思う。もしかしたらかなり物好きなのかもしれない。ただの妄想かもしれないが。

「春香さん、どうかしたの?」

「ええ、ちょっと質問に答えてほしいのよ。」

「わかった。」

「単刀直入に聞くけど、玲仁君を好きって思ったことはある?」

「ないよ。」

 芽衣子ちゃんは真顔で動揺一つ見せずに言い切ったので、こちらは脈なしだと判断して安心した。正直今回の計画は芽衣子ちゃんにも手伝ってほしいし、三角関係はめんどくさいからね。

「玲香が玲仁君のことが好きだと思うんだけど、芽衣子ちゃんなら応援する?」

「それはぜひしたいわ!だって、美男美女のお似合いカップルでしょ?」

 そのあとしばらくは玲香と玲仁君がいかにお似合いかを語られたが・・・・若干引きながら適当に相槌を打ってやり過ごす。

「じゃあ、私たちは玲香と玲仁君をカップルにする方針でいいわね?」

「はい!・・・・ところで、春香さんはどうして玲香ちゃんと玲仁君あいつをくっつけようとしたんですか?」

「・・・・玲香の出生が悲惨だから、玲香には幸せになってほしいの。」

「え?」

 ずっと、怖かった。玲香が玲香の出生を聞いてくる度にごまかして、それでもバレたら玲香はどこかへ行ってしまうのではないかと思って。玲香に本人の出生を話したら、玲香は優しいから気に病んで最悪の末路をたどるかもしれないって思って。

 だからこそ、玲香がはまった”魔法”という存在に打ち込ませた。ローレンス様を好きになった素振りを見せたらローレンス様と仲良くさせようとした。何かに打ち込ませて出生のことを思い出させないようにしないといけないと思った。

 私としては”出生”という過去より、現在未来のことを考えてほしい。惑わされないでほしい。そういう思いだ。今でも変わらない。

 最初に転移されたのが3歳だった玲香とは違って、私は13歳だったから玲香の出生に関しては、はっきり覚えている。でも、これからも伝える気は特にない。だって玲香は今幸せだから。わざわざ不幸になるようなことを話さなくていい。それが親代わりとして、ここまで玲香の人格と心を育ててきた私の考えだ。

「・・・・わかったわ。で、まずは何をすればいいと思う?」

 一旦暗い話を忘れて、玲香の現在の助けをすることにした。

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