第30話・大賢者と最強騎士のお別れ

 玲仁君が準備をしているのはわかっていたけど、かける言葉が見つからなくて気づいたらお別れの日になっていた。

「行っちゃうの?」

「あの人の招集には逆らえないからさ。正直行きたくないよ?」

「じゃあ、行かないでよ。」

「・・・・いってきます。」

「また会おうね。」

 それが別れる前にかわした最後の言葉だった。

「お嬢様、熱中症になりますよ?」

「・・・・わかった。入るよ。」

 家の中に入って無機質な部屋を見て泣いた。もう、玲仁は帰ってこないかもしれない。なぜ招集されたのか?なぜ玲仁君はそれに答えたのか?何もわからない。最後にもうちょっと話しておけばよかった。また会えるかもわからないのに。また会おうって言って会えたことなんて一度もないのに。

 自分の部屋のベッドに横たわって考える。

 前世のローレンス様にしても今世の玲仁君にしても、何も言えずに存在が遠くなっていく。もう60年以上も生きているというのに、人間関係を築くことができない。

 そういえば、私は人間関係を築こうとしたことはあったのだろうか?最初に転移した世界ではなんとか頑張っていた気がする。それが、転移して、転移して、転移を繰り返して、人間関係を築いても無駄だって思ったんだっけ。

 だったら、この世界でも人間関係を築くことをやめればいいの?そうすれば誰がどうしても傷つかないの?

 でも、そんなの嫌だ。ちょっとずつ人と仲良くなることを覚えて、人の心の温かさに触れて。誰か仲がいい人がいないと生きていけない体になってしまった。

 別の世界の他の人たちを見ても、世界も文化も下手したら体も、何もかも違うのに、自我のある生き物には共通点があった。

 それは何か、誰かに依存すること。どんな人でも、複数の何かには依存していた。それが一つのものに全部寄りかかってしまうと問題だと思う。でも、依存している分には問題ないと思う。だってそれは自我がある限りおかしい反応ではないから。

 さっきまで、いや今も私は玲仁君に依存していたと思う。それは間違いないと思う。問題はどれぐらい依存していたか、だ。

 軽い程度のものだったら時間経過で依存はなくなると思う。でも、依存が強すぎる状態で離れると、心が耐えきれなくなる可能性もある。

 私の依存が軽いものなのか、強くてどうしようもないものなのかはわからない。

 正直時間経過で様子を見るしかないと思う。だって感情というものは自我がある限り起こりえる生理現象であり、気持ちだけで抑えることはできないから。

 何かをやっていれば、自然消滅するかもしれない。そう思って魔法の研究に手をつけた。

 そのお別れは、ひまわりが咲く8月のことだった。


 玲仁君と別れてから三年も過ぎた。

「お嬢様はすごいですね!」

 自分なりに勉強を必死に頑張って、有名な小中高一貫の学校に特待生として入学することになった。

 気持ちなんか何も晴れてはいなかった。目を閉じたら玲仁君の顔が浮かんだ。何をしていても玲仁君のことを思い出した。ここまで依存していたら長年鈍感な私でもわかる。

 私は、玲仁君に恋をしてしまったのだと。多分ローレンス様のころから恋してしまっていたのだと。

 特待生になったのも、玲仁君と知り合ったきっかけの”勉強”というものをしていると気もまぎれたし、玲仁君のことを思い出しても苦しくならなくて、いつの間にかそうなっただけだ。正直学費免除やスクールカースト(?)などというものには興味がない。

 あれから友人を作るきっかけは沢山あったものの、私自身がそんなに沢山友人を作る気がないこともあって私の友達と言えば理沙ちゃんと芽衣子ちゃんで、それも”友人”というより”親友”みたいな関係な気がする。

 それに、他の人と話していても心が満たされないのもある。年月が経ってもやっぱり玲仁君に会いたいと思っていた。

 何年たっても色あせない想いというのが本当にあったのかと我ながら感心するぐらいだ。それでも思う。会いたい。

 私はこの世界の魔法理論の最後の行を書き記した。


 あとがき

 ここまで読んでくださりありがとうございます。大丈夫です、こんなに重い話は長く続きません、多分大丈夫。

 よければフォローや応援や★、レビューやコメントなどお願いいたします。それでは。

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