第23話・大賢者の別荘 part5
理沙ちゃんや玲仁君と楽しく過ごしていたらいつの間にか最終日の夜になっていた。かつて時間がこんなに早く過ぎ去っていったことはあっただろうか?
「理沙ちゃん、今日はどうする?」
「うーん・・・・今日は玲仁君と過ごしな?」
「え、いいの?」
「うん、だってまた遊びに来れるんでしょ?だったらいいよ。」
「わかった。」
ちなみに部屋に理沙ちゃんが度々遊びに来たこともあった。今日は最終日だし一緒に過ごすかと思ったけど・・・・。
「その代わり玲仁君と何が起こったか報告してよ?」
「はいはい。」
何が言いたいのかはわからないがまあいいや。
今日は推しと二人っきりだからね!
「終わっちゃったね。」
「そうだよな。本当に早かった。」
別荘にいるときの過ぎ去る時間は本当に早かった。これ以上早く感じたことがないほどに。
「また、一緒にこんな時間を過ごせればいいね。」
「そうだな。」
「今度は二人っきりで旅したいね。」
「ええと、それはあの世界での話?」
「うん、もうちょっとなんだよね。」
「もうちょっとってもしかして異世界転移を起こす方法のこと?」
「うん。」
後天性異世界転移を起こすためには、”何らかの方法を使って次元の狭間に移動する”ということをしないといけない。
次元の狭間に入る方法として、私にとって現実的な方法が”神様にお願いして入れさせてもらうこと”なんだけど、現在神様を説得中なんだよね。そもそもLvが低い状態だから伝えたいことも伝えられないし、説得は難航している。
「もし異世界転移ができたら俺も連れてって。」
「わかった。で、今日はどうする?」
「え、何の話?」
「ベッドとかどうする?一緒に寝るの?」
「・・・・遠慮しておくよ。」
「そっか・・・・。」
やっぱりだめなものはだめだよな・・・・。
「えっと、一緒に寝たい、の?」
「うん。」
多分今の私の表情は寂しい気持ちでいっぱいになってると思う。声色も寂しそうだったし。
「・・・・わかったよ、今日だけだよ?」
「え、いいの!?」
上ずった声でうれしそうに叫んでしまった。表情も多分すごい嬉しそうだったと思う。だって実際に嬉しかったし。
「じゃあ、寝よう?」
「うん!」
この出来事は7月27日日曜日のことだった。
@***@
俺は嬉しそうに同じベッドに入る玲香様を黙って見ていた。それと同時に出会ったときのこと、そして彼女の真の姿を見てしまったときのことを思い出していた。
家永玲香様と玲香様の姉の家永春香様とは、冒険者紹介所で出会った。冒険者紹介所とは、冒険に出たい人同士で集まってパーティーを組むための場所だ。まあこの詳細はそこまで気にしなくていい。
俺は戦いの名家のケンドリック家の出身だが、13歳のときにケンドリック家の方針と衝突してしまい家出して冒険者になろうとしていた。しかし、その当時はものすごく弱かった。そんなときにわざわざパーティーを組もうとしてくださったのが玲香様だ。
当初、玲香様は”ライラ・イザード”という名前で登録していた。姉の春香も”ハンナ・イザード”という名前でだ。なぜ偽名を使っていたのかは今でもわからない。
待ち合わせをして会ってみたら、白い髪に翡翠色の瞳をした16歳ぐらいの美少女だった。身なりも動きやすいものではあるが薄い青紫色のシンプルなワンピースで、特に不審なところや”幼さ”を感じることはなかった。
姉の春香様も玲香様よりは身長が低かったが、どう少なく見積もっても20歳は過ぎている美女だった。こちらも同じ白い髪に翡翠色の瞳で、翡翠色のシンプルなワンピースを着ており、女性の理想のような見た目をしていた。
そのままパーティーを組んで1年、何の疑問もなく過ごしていた。ある日、宿屋で玲香様と春香様が入ったはずの部屋から声が聞こえてきた。
「どうかな?」
「うん、いいと思うよ!」
その声はどう聞いても小さな女の子の声にしか聞こえなかった。しかも、玲香様と春香様が入った部屋で聞こえてきた。俺は襲われてるのかと思って扉を開けた。
そしたら、部屋の中には2歳ぐらいの黒髪に黒い瞳で玲香様と同じ色のワンピースを着ている女の子と、8歳ぐらいの黒髪に黒い瞳で春香様と同じ色のワンピースを着ている女の子が部屋の中にいて、”ライラ”と”ハンナ”は部屋の中にはいなかった。
「・・・・ごめんなさい。」
玲香ちゃんはそう、一言だけ口にした。何か見てはいけないものを見てしまった、知ってはいけないことを知ってしまった気分だった。この世界の童話に例えるなら鶴の恩返しのおじいさんが鶴の部屋を覗いてしまったときの気分だった。
そこから初めて事情を知った。何でも女の子二人だとなめられて誰もパーティーを組んでくれないとか。
「あなたにも心当たりはあるでしょう?」
そういわれて俺は二人に同情した。本当の事情を聞いて、なんか納得する部分があった。
だから、俺は幼い二人を受け入れることにした。
「これからもついて来てもらえると嬉しいな。」
そうやって誘った記憶がある。こうして俺たちは旅を続行したわけだが、その4年後に俺は死んでしまった。二人を残して。
だから、前世の記憶を取り戻して第一に思ったことは”玲香ちゃんが生きててよかった”という安心感だった。同時に今世では絶対に早死にせずに守りきると思った。前世では命に代えてもライラとハンナは俺が守るとか考えてたけど俺が死んだら守れるものも守れないなと思って反省した。
今、玲香ちゃんが目の前にいることにひどく安心感を覚える。命がなくなっても守ろうとした命が目の前にいることに。
玲香様を見つめていたらだんだん愛おしいという感情がわいてきて、玲香様を抱き寄せた。
「え、ちょっと?」
「あ、ごめんいやだった?」
「・・・・いや、では、ないけど・・・・。」
これはすごい照れてるのかな?最後まで聞きたい気持ちもあるけど本人がすごい恥ずかしがってるので聞かないでおこう。
玲香様に向けるこの感情は何なのだろうか?この状態が物語で恋愛小説とかだったら恋を自覚するようなところなのだろうが、恋愛とか親愛とか以上に尊敬の感情がある。うまく表せないけど。
考えていたらだんだん眠くなって眠りについた。
@***@
目覚めたら玲仁君がものすごい至近距離にいたところで思い出した。昨日一緒に寝ていたのだと。
とはいえ昨日の玲仁君の大胆さよ。特に抱き寄せられたときに、心臓がおかしいのではないかと思うほど早く大きく動いてたよ。
あんな環境でもしっかり寝れてるのがおかしいほどだ。やっぱりこの世界では睡眠時間が長いし、睡眠の質もよいように思える。
こんな環境にいたら心臓が持たないので、私は朝の支度と帰る支度を理由に抜け出させてもらう。
よし、片づけとかがんばるぞ!
しばらく片づけていたら玲仁君が起きた。
「おはよう。」
「お、おはよう。片づけ手伝って。」
動揺が声に出てしまった。
「わかった。」
とりあえず了承が出てよかったけど、顔をまともに見て話せない。玲仁君も察したのかお互いに片づけを黙々とやったのだった。
「おはよう、って二人ともなんでそんなにそわそわしてるの?」
「これは・・・・!」
「心の整理がつかないなら次に来た時に話してもらえればいいよ。今日はさようならの日だよ。心と忘れ物は確認した?」
「わわわ忘れ物はないと思うよ!」
「玲仁君、ちゃんと玲香ちゃんの気持ちは確認したの?」
「だ、大丈夫だって言ってた、ぞ?」
「まあいいや。お互い意識してこういう状態になってるだけみたいだからね。帰るときはお見送りするから!」
「「はい!」」
ダメだ、今の問答でさらに意識してしまった。私よ落ち着け。落ち着くんだ。
この後予定通り帰ったんだけど、車の中でもそわそわしてしまってお父様とお母様に心配されてしまうのだった。
あとがき
ここまで読んでくださってありがとうございます。これで大賢者の別荘編は完結となります。あとは自分でご想像ください。よろしければフォローや★や応援をお願いいたします。
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