第9話・大賢者の散歩 part2 (最強騎士視点)

「玲仁君、あそこ」

 そういわれて俺・・・・神垣玲仁は玲香様が指をさした後ろを見た。

 そこにはさっき後ろをつけていた女性と・・・・刃物を持った男性がいた。

「え?」

 俺がうろたえてる間に女性が刺されていた。早く動かないと命を落とすだろう。でも。

(俺にできることは何?)

 俺は前世でも今世でも魔法が使えない。そもそも魔法を使おうとしてもMPも魔力も足りない。この状態でできることを考えていた。

「ローレンス様、男性を捕まえて警察を呼んで。」

 確かにできることと言ったらそれぐらいしかない。なので硬直した体を動かすことにした。

 女性を刺すところを目撃されて逃げていく男性を追いかける。幸い追いかけるときの体の動かし方ぐらいは覚えていたので体力が少なくなった男性にすぐに追いつくことができた。

 それでもなお逃げようとした男性を羽交い絞めにする。前世の時に比べたら力が足りないかと思ったが、男性の体力が尽きかけていたのもあって拘束することができた。

「すみません、警察を呼んでください!あと救急車も!」

 呆然としていたもう一人の女性に指示をする。緊急事態というのは硬直することも多いが硬直とは緊急事態に一番やってはいけないことなのだ。

「はい!」

 これで逃がさなければ男性は逮捕だ。間違いないと思う。男性は返り血も浴びていたし。

 あとは玲香次第だ。いかに女性を救うか。そう思って玲香の方を見た。

 そしたら玲香は女性の傷口に光をしみこませて傷を治していた。

 大賢者というからには魔法が得意なのは想像がつくと思うが、玲香様の場合世界トップのヒーラーにも匹敵するMPと魔力を持っている。そんな玲香様に治療を受けていれば多分完治するだろう。ヒーリングにも事情があると思うから無理かもしれないけど。

(ダメ、被使用者の体力が少なすぎる!完全に治すのは無理!)

 体力は関係があるのかはわからないがとりあえず今完治するのは無理そうだ。

「そっちの状況は?」

「とりあえず命にかかわらないところまでは引っ張り上げられそうだけど、今日一日で完治は難しいと思うわ。」

「わかった。」

「そっちこそ状況は?」

「犯人を捕らえたよ。あとは警察と救急車が到着すれば大丈夫だと思う。」

「ありがとう。とりあえず安心したわ。」

 これ以上話していると拘束が緩みそうだったのでとりあえず話を終わりにして玲香様は治療に集中、俺は男性を拘束しながら警察と救急車を待つことにした。


 数分後、警察が来たので男性を引き渡した。女性の方は玲香様の言っている通り命に関わらないところまでは治ったが、意識はないようだった。女性は救急車に引き渡した。

 正直、体力をかなり使ったがこれでよかったと思う。あとは女性が目覚めて男性が逮捕されてしょっ引かれれば一件落着・・・・かもしれない。未来のことなんてわかる人は少ないからね。少なくとも俺はわからない。

 そして俺はというと玲香様の言っていたことが気になったので聞いてみることにした。

「回復魔法って治療を受ける側も体力を使うの?」

「使うわよ、特に治療を受けることに慣れてない人はね。ローレンス様とかだったら治療慣れしてるからそれほど体力は使わないけど、治療されることに慣れてない人は体力の消耗も激しいし、体力尽きたら死んじゃうから下手に完治させないほうがいいこともあるわ。」

「なるほどね~。」

 回復魔法も奥が深いということだろうか。

「しかし今の玲仁君は多いMPを感じるわね。それに高い魔力も。」

「え?」

 それってもしかして・・・・。

「魔法を習う気はないかしら?」

「習います!」

 前世から魔法という存在にあこがれていた。でも、適性検査をする人に(10歳の時点で)MPが3で魔力が1とか言われたし、HPがものすごく高いからタンクとか物理アタッカーになってはどうだろうと言われてショックだったけど前衛になった。

 でも、今世では魔法が使えるぐらいにはMPも魔力もあると言われてテンションが上がらない人がいるだろうか。え、いないよね?

「じゃあ、日本語勉強のあとに教えるわね。」

「うん!」

 ようやく前世の夢がかなったのだ、失望させないようにしないと!

「二人とも、帰りますよ。」

「「はい!」」

 悔いなんかとっくになくなった俺はとりあえず今日は帰ることにした。

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