第7話・大賢者の親

 その時は夕食でグラタンという料理を食べているときだった。

「叔父さんと叔母さんの親になってくれないか?」

 正直その時にはある程度聞くことと話すことができるようになってきたので言語精霊を外に出していたのだが、耳を疑ったし翻訳間違いかと思った。

「ええと、どういうこと?私の聞き間違い?」

「叔父さんと叔母さんの親になってくれないか、だって。」

 異世界の共通語に翻訳してくれたんだけど読み取った内容と全く同じだったから多分聞き間違いではない。

 そもそも親になるとは?血は一応つながってるはずだけど、親にはなれないはずだよ?

「すみません、玲香ちゃんが困ってるからもうちょっと+*(解像度)を高くしてくだい。」

 途中よくわからなかったが、どういう言葉だろうか。めんどくさいので言語精霊を体に宿した。

「血がつながってなくても親子にはなれるんだよ。だから、たとえ血が薄かったとしても親子にならない?」

「ええと、その前にお名前を聞いてもいいですか?」

 正直名前とか全く聞いてなかったんだよね。一緒に暮らしてるはずなのに。

「俺は久保山佑太くぼやまゆうただよ。よろしくね。」

「私は久保山祐奈くぼやまゆうなだよ、これでいい?」

 久保山っていう苗字なんだ。ちょっとかっこいい。

「養子、ですよね。わかりました。」

「じゃあ、お前は今日から久保山玲香、な!」

「わかりました、お父様、お母様!」

「あ、敬語とかはいいのよ?」

「え、そうなの?」

 だってこの家貴族の家っぽいし少なくとも侯爵家ぐらいの爵位はありそうだから必要だと思ったんだけど。

「玲香ちゃん、少なくともこの家はお金持ちではあるけど貴族ではないよ。そもそもこの国には貴族はいないんだ。」

「え、そうなの?じゃあ政治とかはどうやってるの?」

「それは俺も詳しくないから玲香ちゃんが調べてね?」

「わかった。」

 玲仁君の前世・・・・ローレンス様だったらヒーラーをたった一人用意すれば人はおろか、簡単に国を滅ぼせるぐらいの強さだった。私もそれぐらい強いけど。

 そのぐらい強くなると外交というか、王様がその人に気に入られようとしてくるんだよね。だから政治にかかわることは必要不可欠になる。

 だから詳しいと思ったんだけど、そうでもないのかな?前世でもやりたくなかったのかもしれないな。実際脳k

「何か言った?」

「な、何でもないです。」

 え、心でも読まれてたの?視線だけで死ぬかと思った。玲仁君もローレンス様も怒ると怖いしね。

「脳筋っていう言葉が聞こえた気がしたけどいいや。今度本でも読んでみるよ。」

 この世界にはいろいろな本があるんだな・・・・あれ?

「玲仁君って本、読むの?」

「前世では全然読まなかったけどこの世界に来てはまっちゃって。前世で読まなかったのがもったいなく感じるぐらいにね。」

 そうだね、文字の読み書きはできるはずだもんね。玲仁君の前世の実家って名家だからね。ほんと、なんで騎士なんかになったんだろうか。まあ、本人の自由だけど。

「うん、本は面白いよ!」

「そうだよ!この世界には娯楽小説とかもたくさんあるもん!」

 娯楽小説、か・・・・。そういえば娯楽関係の本を読んだことは全然なかったな。この世界では働こうとしても難しそうだし、日本語の文字を習得したら読んでみようかな。

 向こうの世界では貴族(確か侯爵令嬢)が書いた成長物語が流行ってたっけ・・・・。みんながその物語を読んでるとき私は雇った前衛さんと魔物の討伐に行ってた気がする。基本的に多忙なんだよ。だからこそこの世界を満喫することにしたんだけど。

 勉強だけしてれば働かないで済むとか最高じゃん。少なくとも私は最高だよ。異議は絶対に認めない。

 食べ終わったので席を立とうとしたんだけどお母様に引き留められてしまった。

「こら、せめてごちそうさまっていいなさい!」

「ごちそうさまでした。」

 多分発音かなり怪しかったけど気にしない。

「玲仁君、どうして食事の前にごちそうさまでしたって言わないといけないの?」

「ごちそうさまでしたっていうのは作った人への感謝だからね。反対にごはんを食べる前に言ういただきますは食べ物の命への感謝だよ。まあ、玲香ちゃんの場合いただきます言わないでも大丈夫なぐらい食事への感謝があるけど、所作の問題で言った方がいいよ。」

「そっかぁ。」

 毎回祈ってるのがばれてるとは玲仁君は特殊能力でもあるのかな。輪廻・・・・生命と魂の循環に関わるときもあるから祈っとくだけでだいぶ違うのに。

「ねえ、明日一緒にお散歩しない?」

「いいね!」

 推しと一緒にお散歩できるとか最高じゃん!前世と全く一緒ではないけどそこはご愛敬!だってローレンス様になることは二度とないのだから。

「じゃあ、そうとわかったら早くねよう!」

「うん!」

 その明るさに明日が楽しみになった。

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