第5話・大賢者が感じる日本語の難しさ

「ここまで習った内容で自己紹介をちょっとだけしてみようか。」

「ハジメマシテ、ワタシハイエナガレイカトイイマス。ヨロシクオネガイシマス。」

 日本語を習い始めて数日。(ものまね状態とはいえ)初めて自己紹介の文を言うことができた。

 それと、大きな変化があった。

「本当に迷惑じゃないの?」

「うん、玲香ちゃんのほうが大切だから大丈夫だよ。」

「ならいいけど・・・・」

 玲仁君の親の許可の元、ここに滞在することが決まった。これに関してはよく親が許可したな、と思っている。だって普通は許可しないでしょ。お嬢様の家の通訳をするとか。まさかだけど脅迫的なことを使ったのだろうか。

「いや、もともと俺こっちの世界では孤児なんだよ。一応後見人はいたんだけど、今思えば相手の家にとって迷惑だっただろうからいいよ、別に。」

「・・・・そうなんだ。」

 初めて知ったよ、玲仁君が孤児とか。というより後見人がいたのか。まあ話から察するにあんまりいい態度ではなさそうね。

「今は勉強に集中しよう?」

「・・・・うん、そうだね。」


「わかった?」

「うん、なんとなく。」

「じゃあ、ちょっと実践してみよう。玲香さんは今何歳ですか?」

「・・・・ニサイデス。」

「実年齢は?」

「・・・・ワカリマセン。」

「え、ちょっと待ってわからない?」

「うん、わかんないよ。」

「俺が生きてた18年前にはすでに大賢者になってた気がするけど・・・・」

「ええ、あの世界と肉体年齢を二十代後半ぐらいになるでしょうね。」

「え、じゃあ本当の年齢は?」

「だからわかんないんだって。」

「じゃあ、推定の年齢は?」

「それももう忘れた。気が付いたときには記録するようにしてるんだけど。それもいろんな世界のすごした時間と肉体年齢を足したものだから・・・・。」

「・・・・俺の年齢は9歳です。」

 気遣って日本語の勉強を再開してくれた。ありがたや。

 ちなみに前世の没年齢は18歳。ローレンスを早死にさせた関係者を自分含めてぶっ殺してやりたい。

 それより9歳なんだ、あの世界の年齢の価値観とだいたい一緒だったね。この世界の人間の年齢って読めないから。

 まあ平均身長が全体的に低いこの世界だったら発育がいい気がする。気のせいかもしれないしそうじゃないかもしれない。

「あれ、オレって何なの?」

「一人称だよ。」

「え、ワタシもあるよね?それは何なの?」

「両方一人称だよ。」

「え、一人称が二つあるの?」

「うん、二つどころじゃなく沢山あるよ。例えばさっき言ってた俺は女性が使っても問題ないけど男性のちょっと荒っぽい口調だし、私は男女共通だけど丁寧に聞こえるし女性だったらカジュアルな場面でも使うことがあるよ。」

「へえ、いろいろあるんだ。」

「うん、使うことが多いのは俺、僕、私あたりかな。たまにあたしとかうちとか自分とかあるけど。」

 いや、聞いただけも六種類もあるね。そういえば私っていう一人称を教わったときにも一旦って言ってた気がする。

 過去に学んだ言語では男性一人称と女性一人称が分けられてる場合もあったけどニホンの一人称は多様なようだ。

「こんなに沢山あるんだ・・・・」

「うん、そうだね。俺が前世の記憶を取り戻してからちょっと自信がなくなってきたところだよ。」

「じゃあ、スピーキングを再会しよう!」


 その誘いは夜ご飯が終わってからだった。

「+*に行かないか?(幼稚園に行かないか?)」

「へ?」

 肝心なところが全く聞き取れなかったし多分知らないものだったと思う。

「幼稚園に行かないか、だって。」

 すかさず玲仁君つうやくさんが通訳してくださった。よかった。

「で、ヨウチエンって何?」

 異世界にはそんなものはなかったよ?

「幼稚園っていうのは本格的に学校に行く前にちょっとだけ勉強する場所のこと。」

「そうなの?」

 ちょうど日本語以外の勉強もしたいと思ってたところなんだけど・・・・

「その場所って玲仁君はついて来れるの?」

「え、無理だよ。」

「だよねー。」

 玲仁君も公園で出会ったあの日以来午前の間にどこかに行ってるし。なお、どこに行ってるかは不明。

「オネガイデス。」

「うん、自分で言おうとしてる努力はすごいけど・・・・お願いしますの方がいいかな。」

「オネガイシマス。」

「うん、じゃあ#$++*&おくね。(うん、じゃあ3月15日に申し込んでおくね。)」

「なんて言ってたの?」

「3月15日に申し込んでおくね、だって。」

 よし、これで勉強ができる。あとは言語問題だよな・・・・どうしようかな・・・・あ、そうだ。この世界っていっぱい言語があるって玲仁君が言ってた。だったら・・・・。

 思いついたことがあったので寝室に入ったら試すことにした。


「*+&。(よい子は寝る時間だよ。)」

 現状、このように日本語は集中しないと全く聞き取れないのは事実だ。その集中力をヨウチエンで常に保てるかというとさすがの私でも無理だと思う。

 だから、私は私にできることをしよう。そう、魔法を。

(総括神様。)

(どうした、玲香?)

 今、私は総括神に話しかけている。そう、神々召喚の手順だ。

 とはいえ召喚をするためには神様の組織図をよく知っていないといけない。そこで総括神様の出番が来るわけだ。

 ちなみに話しかけてる言語は神仏語と呼ばれる神様が使う言語だ。地上で扱う文化圏は少なくとも私が訪れた中ではない。よって習得が非常に大変だったのだが・・・・自慢と愚痴の話はまた今度にしよう。

(言語に特化した神様はいませんでしょうか?)

(ああ、言語神か。呼んでくるぞ。)

 よし、成功した!

 普通の世界なら言語の種類と言えば”共通語”と”魔法語”だけだ。でもこの世界には沢山の言語がある・・・・らしい。ならさすがの神様でも全部の言語は覚えてられないだろう。だったら”言語専門の神様がいるんじゃないか?”という疑問があったから総括神様に聞いてみたら本当に存在したのだ。

(言語神だ。何か用か?)

(言語神様、天使か精霊のうち一つをこちらに遣わしてくださいませんか?)

(いいぞ。何の言語がわかればいい?)

(ニホン語です。)

(わかった。呼んでくる。)

 言語神がいるなら言語天使と言語精霊もいるはずだ。ならそのうちの一人を呼んでくれっていうのが今回の頼みだ。

 言語天使か言語精霊を体に宿せば聞くことも話すこともできるはずだ・・・・多分。

 しばらくして精霊が体に入る感触があったので言語精霊が派遣されたんだろう。ありがたい。これで言語が・・・・

「どうしたの?早く寝なさい。」

 うん、このくらいならわかるようになったけど理解に数秒かかるな。あとこれ話すことはできるの?

「はい。」

「?」

 うん、話すことはできないようです。早く日本語を覚えないと・・・・

 あと召喚したことでMPが切れそうです。早く寝ましょう。ほんと、Lv1の状態は不便だよ。

 あと、今日は3月9日だそうです。よし、がんばって学ぶぞー!

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