第2話・大賢者は外の世界を見る

 男女に連れ去られるがままに外に来ました、大賢者家永玲香です。

 しかしこの男女明らかに成人してるのに小さいな。それに私とお姉ちゃんと同じ白い肌に黒髪に黒い瞳って自称母親以外に初めてみたよ。人生続けてみるものだ。

 道行く人も同じかそれより小さいぐらいなのを見ると、この世界の平均身長自体が小さいのか?

 まあ、今はそんなことは問題じゃない。問題は目の前にある特徴的な大きな鉄の箱だ。さっきから驚く心を封印しているのだがこれに関しては無理だ。

「*? *$%?(え?乗らないの?)」

 多分この男女はこの箱に入れたがっている。魔物じゃなさそうだしそもそも生命が入ってないのはわかるのだが、なんでこんなものが道端に置いてあるのか?そもそもこの箱の意味は何?何の役割があるの?まあ、悪いものではなさそうだ。というか悪いものではないと思い込んでおこう。

 箱の中にはクッションしかない椅子が数個置いてあるようだ。すでに誰かの男が入っている。

 そしてその男の席だけ特殊なようだ。他の席には明らかにない黒くて丸いものがついている。

 その男女はどうやら後ろの席に座ってほしいらしい。いや、前も後ろもあるのか?

 椅子の上にもう一個椅子が置いてあるけど、ここに座ればいいのかな?

 意を決して座ったら何か帯みたいな紐を何個かつけてきた。何これ、私を拘束してる?つまりあの男女はいい人の仮面をかぶった魔物だったってこと?

 怖い。私、死にたくない。あの世界に帰って大賢者として活躍したい。そう思ってから気づく。

 私、怖いって思ったのいつぶりだったっけ?むしろ、私は怖いって思ったことはあった?

 私の記憶の限り、そんなことはない。どんな魔物を相手にしても、武器を持った人間を相手にしても。

 私が通った学校の先生が言っていた。”人間が怖いと思うのは本能でありことわり”だって。

 あの世界にいるときは人間の理が成立してなくてこの世界に戻ったときに人間の理が成立した。と、いうことはつまり・・・・

「逆異世界転移・・・・」

「「?」」

 私は幼いころに何らかの理由でこの世界からあの世界に転移した。そのあと、あの宝石に触れたことでこの世界に。それも両方が後天性異世界転移で。

 つまり私はこの世界で生まれた。ということは一切伸びなかった身長が伸びたりするの?幼児から脱却できるの?最高じゃない!

 気づいたら鉄の箱は動き出していたが特に気にならなかった。


「*@!(ついたよ!)」

 そういって女性が豪邸を指さした。同時に鉄の箱が止まるけど・・・・もしかして、ついたって言ってるの?あの大豪邸に?

 明らかに敷地が広いのに三階建てになってるあの大豪邸に?いや、維持費どうなってるの?それにこの広さだったら明らかに少なくとも二人では掃除できないよね?もしかして私に掃除しろって?悪いけど掃除の時ずっと魔法使ってたし、そもそも一か所にとどまってなかったから掃除はできないよ?

 やっぱりここが目的地だったの?鉄の箱って馬車より快適だったし明らかに早かったよ?時速30kmキロメートルは出てたよね?しかもMPが動いた気配が全然なかったよ?この世界の技術とかどうなってるの?

 拘束を解かれて車を降りたら、豪邸の大きさがさらに身に染みる。いざ、手を引かれて豪邸へ!


「*$。(食べましょう。)」

 うん、相変わらず意味は全く理解できないけど、沢山の白い粒と焼いたお肉の塊と、サラダと黄色いスープを並べられて言われたらごはんに関することなぐらい私じゃなくてもわかるよ。

 とりあえず着席して食べるか。あれから数時間経ってるしそろそろ餓死しそうだ。なぜかこの世界ではお腹の減りが早い。

 ごはんを食べるためには並べられてるスプーンとフォークと、ナイフ的なものを使えばいいのかな?そう思ってナイフを使って肉の塊を切ってみると、肉汁があふれ出してすんなり切れた。

 わあ、柔らかそうだし乾いてない!すごくおいしそう!勢いのまま口にほおばった。

 すごく美味しい!肉々しいところもあるし、何よりお肉が甘い!何のお肉を使ってるんだろう!聞いても伝わらないうえに伝わってもわからないだろうけど!

「*!+*@#*+@!(こら、いただきますって言いなさい!)」

 何か言ってるけど私にはわからないのでどうしようもありません!気にせず食べます!

 沢山の白い粒をスプーン的なものですくって食べてみる。最初はほのかな甘みだったが噛めば噛むほどやさしい甘味が出てくるおいしさに目を見開いた。

 野菜も一口食べてみると、海藻特有の味とシャキシャキした葉物野菜と、かかってた液体の香ばしい風味がおいしかった。

 もしかしてスープもおいしいのかと思ってスプーン的なものを使ってすくって一口食べてみる。そしたら白い粒とも肉の塊とも違う野菜的な甘さに目を見開いた。

 おいしい。この世界はどうなってるのか?何もかもが新鮮でもう大賢者とかどうでもよくなってきたぐらいだ。

 いろいろ食べていたら気づいたらごはんがなくなっていた。この食事のおいしさに感動しながらも私は祈った。

 ~どうか、このごはんを構成した命が来世では幸せでありますように~

 確証はない直感的なもので感じたことがあった。それは”この味になるまでに沢山の命が犠牲になっている”ということだった。だったらその犠牲になった命たちがせめて幸せでいれるようにしたいと思ったのだ。

 私には不思議な能力がある。それは神様と会話ができるということだ。普通なら何をやっても神様と会話なんてできないのに。私の前世なんてわからない。でも、神様とつながってる私が祈ったら何かが変わると思ったんだ。

「*#+$*+。(ごはんを食べ終わったらお風呂に入ろうか。)」

 相変わらず言ってる意味は全くわからないけど、ドアを指さしているってことはどこかに案内しようとしてるのかな?だったらついていこうじゃないか。

 この世界、少なくとも私がこの世界で接してきた人たちはみんないい人だから、多分悪い場所には案内されないだろう。

 私は次に案内される場所を楽しみにした。


 次に案内された場所は白くて清潔感がある場所だった。ついてきた女の人は服を脱がせようとしてきてるけど・・・・装備品を引っぺがす気?大賢者の物よ?

 まあ抵抗できないから脱がされてるんだけど。ついに裸になってしまった。

 しかし、この服もボロボロだな。毎日のように私の代わりに傷を負っていたから当たり前と言えば当たり前なんだけど。

 そういえばこの服回復魔法をかけると回復するんだよな。かけてみるか。

 あれ、この世界の詠唱がわからないけど・・・・私ぐらいになったら無詠唱で大丈夫か。

 回復魔法をかけるように念じると大量の光が服を包んで、消えたころには服の傷は全部消えていた。同時についていた女性がびっくりしてるけど・・・・そんなびっくりするようなことをした記憶はないよ?魔法を使っただけだよ。まあ口に出しても伝わらないと思うけど。

 で、素っ裸のままどこに連れていくつもり?抵抗できないまま隣の折り戸の中に連れられた。

 でも、この折り戸の中がすごい綺麗だった!タイルが数えきれないほどあるこの場所は光でところどころ反射している。そして人が入れるほど大きいコップの中には水・・・・湯気が出てるからお湯か。あれは火属性と水属性を使ったの?

 そうやってチェックしてる間にもお湯をかぶせられたり、何を使ってるかわからない液体をこすりつけられている。

 しばらく抵抗してなかったら終わったらしく、持ち上げられてお湯の中に入れられる。

 お湯の中は想像しているよりずっと温かい。この状態を作るためにやった努力は計り知れない。

「*+。(上がるよ。)」

 しばらく堪能したら女性が私を持ち上げてしまった。ああ、外の冷気が冷たい。

 あっという間に事前に用意されていたであろうパジャマに着替えさせられてしまった。しかしこのパジャマすごく着心地がいい。

「+*#$(寝室に連れていくわね。)」

 何言ってるかは相変わらずわからないけど今度は何が待ち受けているのだろう。

 私は全力で次の出来事を待った。


「*+$(もう寝る時間だよ、だから寝ようね。)」

 次に連れていかれたのは大きいベッドがある部屋だった。今日一日はおしまいか。もう二度と向こうの世界では過ごせなさそうだよ。みんなありがとうね。私のことを迎えに来てくれた男女も、鉄の箱に入れてくれた男性も、私のことを精一杯出迎えてくれた複数人の男女も、お風呂に入れてくれた女性も。

 みんなみんなありがとう。おやすみなさい。

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