第12話 俺だけが知らないセカイ。
いくら鈍感な高校生男子の俺でも、クラスメートの女子である童子山が俺を家に誘うということは、つまり、つまりだ。
……いや、もう冗談はやめにしよう。自覚してから、俺はずっと平静を装ってきた。だが、さすがにもうこれ以上は無理がある。
童子山と最初に話した時、ひとと話した時、ひとと童子山について話した時、童子山とひとについて話した時……。俺はそのすべてに違和感を覚えていた。いや、何も感じていないようなふりをしていた。
俺と違って、ひとと童子山は、俺のことをしっかりと覚えていたのは間違いなかった。
要するに、俺と他の二人では、前の世界の自覚のレベルが全然違う。童子山に会った時、俺は童子山のことを自覚しきっていないのかと勝手に思ったが、それは完全に的外れだった。自覚が足りないのは俺の方だ。
考えてみれば、ひとが俺のことを「無関心系主人公」なんて呼んだのは、ひとの優しさだったのかもしれない。主人公かどうかはさておき、俺は文字通り「無自覚」でしかなかった。
そして「無神経」でもあったよな。特に童子山へ対する態度は、無神経なものだったと思う。童子山はなぜ俺を家に呼ぶんだろう。そんなことを考えながら童子山の後を歩いていると、あっという間に彼女の家に到着していた。
童子山の家は二階建ての一軒家だったが、やはり見覚えがなかった。童子山に導かれて中に入る。玄関を抜け、狭い廊下を進むと、日当たりの良いリビングルームがあった。
特に周囲を観察することもせず、俺はリビングに並んだ椅子の一つを引き、座ろうとした。しかし、はっとして慌てて立ち上がった。さすがに勝手に座るのは失礼だと気づいたからだ。
「覚えているんだか……いないんだか」
童子山は横に置かれたソファに座り、俺を見てため息をついた。
「座りなよ。それ、物朗くんがいつも座ってる椅子だから」
童子山の言葉に従い、俺は目の前の椅子の背をもう一度引く。あらためてリビングを見渡すが、テーブルや他の家具、薄暗いキッチンカウンター、奥に見える
突如、リビングのもう一つの出入り口から、Tシャツに短パン姿の髪の長い女の子がふわっと入ってきた。彼女は迷わず冷蔵庫へと向かい、俺のことには気づいていないようだった。
冷凍庫の引き出しを開け、中を
「お姉ちゃん、アイスもうなかったっけー?」
「もうないって朝、言ったろ。欲しけりゃ買いに行きなよ」
「えー、面倒じゃん。外出たくないってー」
童子山の妹と思われる子は、その場にしゃがみ込むと、恨めしげに童子山を見上げた。そして俺の存在に気づくと、驚いて目を丸くした。
「あれ? あれあれあれ?」
「ぴゅあ、あっち行ってて。私たち真面目な話があるから」
ぴゅあと呼ばれた子に軽く頭を下げると、ぴゅあは俺に近づき、顔を
「えー? 誰かと思った! えー! 変わりすぎウケル!」
ぴゅあが俺を指さして、けらけらと笑う。つまり俺は、この童子山の妹とも面識があるということなんだろう。
「えー、じゃあ今日、あたしが作っていい? ちょっと試してみたいのがあるんだ」
ぴゅあが明るく言い、はしゃぐように跳ねた。
「助かる。遅くなるかもしれないから、ゆっくりでいいよ」
童子山が、いや二人とも童子山なわけだから、ぴゅあの姉のるるが、機嫌良く答える。……そもそも俺の彼女に対する呼び方は童子山で正しかったのか? もう何を言っても破綻しそうで、俺は少しずつ寡黙になっていった。
「了解。じゃあ、ちょっと買い物してくる。新田さんも、楽しみにしててー」
そう言い残し、ぴゅあはパタパタと外へ出て行った。俺は童子山? るる? とにかく二人きりになった気まずさを紛らわそうと、何か言葉を絞り出そうとする。
「ぴゅあちゃん、相変わらずだな」
「
童子山が俺を即座に斬り捨てた。秒速のツッコミだった。そして、あらためて柔らかな声で俺に話しかけた。
「あのさあ、物朗くん。知らないことを、知らないって言うのは、別に悪いことじゃないんだぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます