これからは...
その知らせを聞くと、キャプスは机をバン!と叩いて立ち上がった。
今は学園の授業中である。いきなり机を叩いて立ち上がった美男子の奇行に、クラスメートや教師は驚いて見た。
「……失礼。すみません、用事ができましたので本日は早退させてもらいます」
キャプスはカバンに必要な物を詰め込むと、知らせに来た生徒と共に教室を出た。
「フェスタとエリールもすぐに来るように呼べ」
「分かりました」
配下の中には子どもを持つ者も多くいる。その子どものうちの幾人かはこの学園に通っていて、こうした有事の際は知らせに来るのだ。
フェスタとエリールがキャプスの待つ中庭に連れて来られると、キャプスは口を開いた。
「フィンが逃げた。城の牢獄に送られるところ、鉄板貼りの馬車を破って逃げたらしい。協力者がいて馬車に細工をしていたようだ」
「あの野郎、また何かしでかす前に捕まえねぇと!」
「エリール、また君が狙われる可能性が出てきた」
「そんな~もう狙われるなんて早すぎる!」
「フェスタ、エリールを守れ!オレはヤツがどこに紛れたか探す」
「探すならオレの方が街には詳しいぜ。普段から歩き回っているからな。変わったことがあれば耳に入るようにしているし。だから、アンタはエリールの側にいて守ってくれよ」
「だが、今はヤツが逃げないうちに迅速に動く必要がある」
「現場仕事はオレに任せてくれって。あれからオレも成長しなくちゃいけねえと思って色々と仕込んでいるんだぜ?」
「仕込みを?なら任せるぞ」
「了解!」
フェスタは学園前にいた配下と合流すると、指示をテキパキと出して去って行った。
「仕事する時のフェスタってあんな姿なんだ……」
「惚れ直したか?」
「いいえ、格好いいと思うけど。あの隣にいるのは私じゃない。ラビィがいる」
あれから学園で、ラビィとフェスタが手をつないで歩いているのをエリールは見かけていた。そういう仲になったということだろう。
「フェスタからは何の報告もされていないぞ。“お前が幸せにならないうちはオレも幸せにはならない”とか言って。オレはラビィとなら良いと言ってやっているのに」
「許可制なの?」
「そういうわけじゃないが、自分の右腕として働くヤツのパートナーは把握しておく必要があるからな」
「ふうん......ねえ、キャプス様は幸せを望んでいる?」
「難しいが、人並みの幸せは欲しいな」
「じゃあ、私と本当の恋人になっちゃう?」
「何だって?……本気で言っているのか?......なぜ、今、そんなことを急に話す?」
キャプスはエリールを胡散臭そう見た。失礼な!と、エリールは最もな理由を述べる。
「だって、フィンが逃げ出してまた私を狙うかもしれないのでしょ?私をもっときちんと守ってもらわないと」
「だからって、オレを脅すのか?」
「脅してない!提案!......仕事上のパートナーを解消されたら、私はもうお嫁にいけないかもしれないし」
「前に“覚悟をした”と言っただろう?」
「私だってやっぱり幸せになりたい!それに、私と本当の恋人になったらいつでも子ウサギに変身してあげる!」
「うぐぐ……ズルイぞ」
ようやく、キャプスが真剣に考え始めた。
「ちょっと失礼じゃない?子ウサギのオプションがないと私に惹かれないの?もう!どいつもこいつもラビィみたいな童顔&巨乳推しなんだから!」
「何ブツブツ言っているんだ。ラビィは関係ない。子ウサギはちょっとイヤ、かなり関係あるが……君はキレイだしスタイルもいいし一緒にいてラクだ」
キャプスは真面目な顔をすると、エリールに向き合いひざまずく。
「恋人と言わず、オレと結婚するか?君はオレと結婚すれば全力で守られるメリットは得られるな。
差し伸べられた手をエリールは全力ではたき落とした。
「ぜんっぜんロマンチックじゃない!そんなポロポーズはイヤ。疑問形だし。というか”好き“だとか何も言われていないし、まずは恋人って話じゃないの??それをスっ飛ばしてプロポーズだなんてオカシイ!」
「君が、“きちんと守って欲しい”だなんて言うから……確かにプロポーズは早いかもしれないが」
キャプスは立ち上がるとエリールを抱き寄せた。
「もう既にオレ達は世間では恋人と思われてる。次は結婚だ。オレと結婚しろ。命令だ」
強引な言葉とは裏腹に、キャプスはエリールに優しいキスをする。突然のことにエリールは動揺したが、正気を取り戻すと即座に言葉を発した。
「
キャプスの胸を押しながら抗議すると、キャプスはやれやれと頭上に手をやった。
「ワガママなお姫様だな。だが、許容範囲だ。もう行くぞ」
エリールはキャプスに手をつながれると、学園の外に待つ配下達の方へと連れて行かれたのだった。
そんな一部始終をクラスメートが多数、窓から目撃していた。突然、キャプスが教室を急いで出て行ったので皆、彼を気にしていたのだ。
翌日、ひざまずいたキャプスがエリールに手をはたかれていたことや、その後、キャプスがエリールにキスして仲良く手をつないで帰ったことを面白おかしくウワサされることになるとは、エリールもキャプスも露ほどにも思ってもいなかったのだった。
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