事の終結

「オレは捕まえたフィンを見に行く。大人しくしててくれ」


子ウサギのエリールは首をフルフル振って“ダメ”と意思表示をした。


何気に初めての任務でとても緊張したし、今は誰かに一緒にいてもらいたい。今も震えているぐらい改めて恐怖を感じている!とエリールは意思表示するべく足をバタバタさせた。


キャプスは困った様子でイスを扉の脇に持ってくると座った。


「じゃあ、オレはここでマルタを待つ。君はベッドにいてくれ。もし、変身が解けても大丈夫なように布団を被っているんだ。いいか?」


エリールは“ウン”とうなずいてベッドの上に跳ねて乗った。言われた通り布団にもぐる。キャプスのタメ息が聞こえたような気がした。


エリールは布団にくるまっていると、極度の疲れを感じてウトウトしてきてしまった。


(布団を被っているしこのまま寝ても大丈夫よね......)


気付いたらグッスリと寝込んでしまった。


「……マジかよ。寝息が聞こえる。それに布団のふくらみからして元に戻ってるな」


キャプスは布団にくるまれたままで息苦しくはないかと心配になった。人間に戻ったエリールに近づくのはためらわれたが、そっと様子を伺うようにして近寄ってみた。恐る恐る布団をそろりとずらすと、エリールの平和な寝顔が見えた。


「君はこんなことがあったのに平和そうだな......」


思わずエリールの顔を見て微笑んでしまう。何となくキャプスはエリールの頭を撫でた。


(......なぜ、オレはエリールの頭を撫でている?)


その時、扉が勢いよくバン!と開いた。


「お嬢様!あ、ボス!!」

「バカ!ノックぐらいしろ」

「お嬢様が大役を見事果たされたと聞いて興奮してしまいまして……えーと、お邪魔でしたか?」


エリールは目覚めてキャプスを見つめていた。胸元まで布団を掛かっているとはいえ、白い両腕や肩が布団から出ていて生々しい……。


「マルタのせいで起きてしまっただろう!」

「あらでは、ついでにボスにはお嬢様の服を着せて頂きましょうかね?」

「ついでって何だ?バカ言うな!」


キャプスはプンプンして部屋を出て行った。


「マルタ、私やったわよ!」

「はい、全て聞きましたよ。お嬢様のつけてやったインクで取り押さえることができたと。先ほど、ヤツの尋問が始まったところです」

「悪いこといっぱいしてそうよね」

「これから相応の罰が下りますよ」

「そうであってほしいわ」

「それより、初の任務はどうでしたか?」

「とってもドキドキした。怖かったし。でも、認めてもらえてうれしい気持ちもある。やり遂げた感も」

「……お嬢様、これからも狙われる可能性はありますよ。一番安全な場所にいられる所を確保しなくちゃなりません」

「辺境にでも戻るの?」

「いいえ。学園は卒業しなくてはなりません」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「もう、こうなったらキャプス様と本当に結婚してしまっては?」

「え、彼は私にそんな気持ち無いわ。仕事のパートナーであり、女除けなだけよ」

「そう思えませんがねぇ。お屋敷でも手をつなぐぐらい仲がいいじゃないですか」

「あれは、私が階段から転げ落ちそうになって……手のかかる妹の面倒を見ているような感じよ」

「真相はともかく、キャプス様は力もありますし、警備隊も動かせる人です。オススメの方ですよ」


マルタに強く言われてナゼかまんざらでもない気分になったエリールだった。


一方、キャプスはホテルを出ると警備隊の牢獄へと向かっていた。


警備隊にはキャプスの配下であり、警備隊として働く者もいる。アーバンとアナスタシアもその1人だった。


「ボス、お帰りなさい」

「アナスタシア、君もよくやった。昇進間違いないな」

「やった!と言いたいところだけど……私、少し疲れちゃって」

「少し休むといい。アーバンお前も落ち着いたら休め」

「じゃあ、アナスタシアと一緒に南の島でも行こうかな」

「アンタ、何言ってるの?」

「お前達、そういう仲だったか?」

「イヤ、今初めて誘っているところです」

「……そうか。いいんじゃないか?」

「やった、ボスのお墨付き!」

「ここでボスとか言うな」

「アーバン、勝手に決めないでよ」


ワイワイ言い合ってる2人を置いてキャプスはフィンのいる牢獄の前にやって来る。牢獄の中にいるフィンはキャプスの姿を見ると顔を上げた。ちなみに、フィンの素顔は至って普通のどこにでもいそうな顔の男であった。


「フィン、うちの国で色々と好きにやってくれたな」

「ボスのキャプスか。金髪に緑の目。キレイな顔立ちだ......スゴクいいねぇ」


舌なめずりするように見て来るフィンが不気味な言葉を吐く。


「何言っているんだお前、気持ち悪いな。男も好きなのか?」

「いやあ、変装する時の参考にしようと思って。アンタの大事なエリールが本物だと間違えるくらいのクオリティで再現してさ」

「エリールに近づくのは許さない。どっちにしろお前は生きてはいられない」

「ふん、希望を言うくらい許されるだろ」

「お前にはこれから苦しい尋問が続くだろう。終わるまで生きていろよ」


胸くその悪いフィンとの会話を終えると、キャプスはまだワイワイ言い合いをしているアーバンとアナスタシアに声をかけた。


「アイツ、まだ何かたくらんでいるかもしれない。見張っていろよ」

「了解です!」


アーバンが張り切って敬礼する。そんなアーバンをアナスタシアが“この人が張り切る時って何かやらかしそうなのよね”と横から突っついていた。


(この2人に替わる人材の育成をしなくてはならないな……)


アーバンとアナスタシアがプライベートで恋仲になるならば仕事に支障をきたさないためにも、新たな潜入できる者が必要となる。


“オレも優しくなってたものだな”と思いながらキャプスは警備隊の牢獄を出て行ったのだった。

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