エリールは...
フェスタはラビィの言葉に驚いていた。
「え、いいのか?」
「何言ってるのよ、さっさと行って!」
「だって、お前はオレのこと……」
「それとこれは別よ!あなたは戦力になるでしょ!」
ラビィはベッドから降りて床に立つとキッパリ告げる。フェスタは呆気にとられていたが、ラビィを見て微笑んだ。
「お前をこのまま放っておくわけないだろ。手下はほかにもいるんだ。行くならお前も連れてく」
そのままラビィの手を取ると部屋を出た。部屋の入口前にはさっきフェスタがのした男が縛られて配下が運んでいくところだった。
「お前、靴は?」
「途中で脱げてどこかに……ねえ、私“お前”じゃないわ。ラビィよ」
「つい。ラビィ、今度落ち着いたら靴を買いに行くぞ」
「え?」
聞き返すラビィの手をとってズンズン歩く。宿泊スペースは床に絨毯が敷かれているので足には負担はかからない。
途中、フェスタは女性スタッフを見つけると靴のサイズを聞いた。ラビィから聞いた靴のサイズが同じだと分かるとお金を払って靴を譲ってもらってラビィに履かせる。女性スタッフは驚いてはいたが、予備があるから大丈夫らしい。
「ごめん。人から譲ってもらった靴だけど、今はとりあえずこれで」
「フェスタ様、ここに来てから謝ってばかり」
「そりゃそうだろう」
靴を履いたラビィはフェスタを見上げると微笑んだ。
「う……そんな満面の笑みを浮かべるなよ。さあ行こうか!」
そのまま2人は通りかかった辻馬車をつかまえてキャプスの屋敷へと急いだのだった。
キャプスはその頃、自分の屋敷に着くと屋敷に残っていたパイクに詰め寄った。
「エリールは!?」
「何です、こちらは何も起っちゃいませんよ」
「ラビィは囮だ。エリールが狙われている!」
「何ですって?マルタと共に調理場にいるはずです!」
調理場にいると聞いてキャプスは駆けだした。この屋敷にはいつものメンバーは残してきたが、襲撃に対応できるほど人数を置いてはいない。この屋敷を含むエリア自体に手下が多く生活しているため、それほど厳重にしなくても良いからだ。
だが、オペラ座に大半の手下を回してしまった状況でこの屋敷に残ったエリールが狙われたとなると、自分の判断の甘さに怒りが湧いた。
「エリール! エリール!!」
キャプスが叫びながら調理場の方へと来ると、探していたエリールがひょっこりと顔を覗かせた。
「何?どうしたの?そんなに私の名前を連呼して……ラビィは無事だったの?」
エリールの姿を見て、キャプスは安心して身体の力が抜けるのを感じた。
「はあ、無事だったか……」
「私はずっと屋敷で今夜の夕飯の仕込みをしていたわよ。で、ラビィは無事だったの?フェスタは?」
「ああ皆、無事だ。フェスタがラビィを見つけて保護した」
「良かった!」
「それで、どうして私を探していたの?」
エリールがキャプスに話しを聞こうと近寄る。オペラ座でラビィとフェスタを探していたキャプスは駆けずり回って汗だくだった。
「寄るな。汗まみれだ」
「それが何なの?お兄様達もよく汗まみれで帰宅していたわよ。......とりあえず、コーヒーでもどう?それとも冷たい水?」
「君はこんな時も平常運転だな……」
気の抜けた会話にキャプスは思わず微笑んでエリールを見つめる。汗をかいていると言っているのに平気で自分に近づいて来るエリールに対して何とも言えない感情が湧いた。
気付いたらキャプスはエリールを抱きしめていた。抱きしめたエリールの頭に自分の顔を寄せる。
「キ、キャプス様??」
そこへ急ぎやってきたフェスタとラビィがこの光景を目撃した。キャプスがエリールを抱きしめている姿を見たラビィが思わずフェスタを見る。フェスタは目を見開いて2人をじっと見つめていた。
「……無事だったんだな」
落ち着いた口調で言うフェスタに、まわりにいた者は皆、驚いた。いつもならすぐに怒り出してキャプスを責めるであろうと思っていたからだ。
「ラビィ、帰ろうぜ。新しい靴を買ってやるよ」
「え?え?それは今度でいいから……」
何故か大人しく去っていくフェスタとラビィにキャプスとエリールも驚いている。
「……いわゆる“吊り橋効果”か?」
「何それ?」
「ラビィの危機にフェスタがラビィに気持ちを向けたのかもってことだ」
「そうなの?」
「ショックじゃないのか?」
「……何故だか、ショックでは無いわ。どちらかというと、キャプス様が私を抱きしめた方がビックリ。それこそ“吊り橋効果”なの?」
「……!! その、思わず抱きしめてしまったのは、色々と理由があってだな……後で話がある。とりあえず、汗だらけのまま君に触れてしまった。君も風呂に入るといい。......オレは風呂に入る!」
パイクに何か指示をいくつかするとキャプスは部屋に向かう階段を急いで上がっていく。エリールは、パイクから敵対組織から狙われていたらしいと聞いてビックリした。
「私が狙われていたなんて……」
「お嬢様、これからは厳重に警備をせねばなりませんね」
「キャプス様に後で話があると言われたわ」
エリールは、知らない間にガッチリ組織の中に自分が関わるようになったのだなと、感じたのだった。
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