いざオペラ座へ

フェスタはひたすらオペラ座まで駆けた。


オペラ座は街の中心部に近い場所にあり、ラビィの劇団などが立ち並ぶ一角から5ブロック先という距離にある。荷馬車で去ったヤツらは既にオペラ座に着いてしまっているだろうと思われた。


(ラビィに何かしたらアイツらをこの世から消してやるぞ)


フェスタは物騒なことを考えながら必死にオペラ座へと辿りつく。荷馬車がつくとしたら裏口だろう。裏口に回ると例の荷馬車が停まっていた。だが、裏口には誰もいない。


急いで来たので普段から持ち歩いている小さなナイフしか手元になかったが、ナイフを取り出すとフェスタは壁に張り付いて中の様子を伺った。


このオペラ座は非常に広く、中には遠方から来た客のための宿泊できる部屋もある。ラビィがいるとしたらそこにいる可能性が高いだろう。


(とにかく順番に調べて行くしかねぇ。怪しいヤツを見つけたら情報を吐かせてやる)


フェスタは宿泊スペースの方へと急いだ。


一方、キャプスの屋敷では簡単な作戦会議が終わると、キャプスは急ぎオペラ座へと向かおうとした。


エリールは“自分もラビィを探したい”と訴えたが、すぐに却下されてしまう。


「君じゃ戦力にならない。足手まといになるだけだ」


そう言うと、仲間達を連れて屋敷を出て行ってしまった。


(私は何もできない……)


フェスタは単独でラビィを探しにオペラ座に向かったと言う。捕らえられたラビィは組織の手伝いをし始めたばかりだし、戦えるスキルなんてないだろう。


(心配だわ。私もお兄様達みたいに戦うことができれば良かったのに)


心配でたまらなかった。フェスタを誘惑した憎き相手だろうが、フェスタを純粋に想って組織に協力したのは間違いない。学園でフェスタにくっつき、世話を焼いているのをエリールは何度も目撃していた。


(フェスタもどうか無事でいて!)


フェスタの腕っぷしが強いのは分かってはいるが、激情型のフェスタは自分が不利でも構わず突っ込んで行ってしまいそうで不安だった。


エリールは皆の無事を心から願った。


その頃、オペラ座にいるフェスタは息を切らしながら宿泊ルームを1つ1つ探していた。途中、ボーイを見つけると胸倉を掴んで情報を得ようとする。


背が高くガッチリとしたフェスタに凄まれ震えあがったボーイは、怪しげな人物達が西の宿泊ルームの方に行ったのを見かけたと告げた。


「お前、本当だろうな?」

「本当ですぅ。殺さないでください!」

「そんなことするか」


フェスタは西の宿泊ルームに向かって走った。かなり駆けずり回ったせいで首に汗が流れ落ちる。全身汗まみれだ。


廊下の角を曲がると、いかにも怪しげなスキンヘッドの巨漢が部屋の前に立ちふさがるように立っていた。


(あそこだな。分かりやすいことしやがって)


フェスタは廊下に飾ってあった絵画を壁から外して手に持つと、スキンヘッドの巨漢に向かって飛び上がりながら思い切り殴りつけた。額縁の角が頭を直撃し、男は床に這いつくばる。


フェスタはすかさず蹴りを男に数度入れると、男は息はしているが完全に動かなくなった。男の懐を探ると部屋の鍵が出てきたので急いで鍵を使って部屋に入る。


部屋にはほかの敵はおらず、ラビィがベッドに縛り付けられていた。まわりを注意深く観察し、安全だと分かるとすぐにラビィの側に行って縛られていたロープをナイフで切って口元の布も外した。


「ラビィ!ケガは無いか!?」

「フェスタさまぁぁ~!」


ラビィは泣きじゃくった。そんなラビィをフェスタは抱きしめる。


「本当にごめん!オレが付いていながらお前を守れなくて。オレはダメなヤツだ」

「それは違う!こうして助けに来てくれたぁぁ〜。フェスタ様が助けに来てくれるって信じてたぁぁ~」


泣きながらラビィは一生懸命言葉を紡ごうとしていた。


(オレを信じて……)


「ごめん、怖い思いさせて」


ラビィを抱きしめ背中をさする。エリールよりも小柄なラビィはフェスタが抱きしめるとすっぽりと胸の中に納まってしまう。震える彼女を守ってやらなくてはと強く感じた。


泣き続けるラビィの背中をさすり続けていると、キャプスが部屋に入って来た。


「ラビィは無事か!?」

「ああ無事だ。傷つけられていはいない。縛られてたがな」

「内部は手下が全てチェック済みだ。手がかりが一切ない。ラビィ、混乱中だろうが何か知らないか?」


キャプスに言われてラビィは胸元の谷間からメッセージカードを取り出し、キャプスに渡した。


「何で胸元から?」


不可解な場所からカードを出されてキャプスは眉間にシワを寄せる。


「あの気持ちの悪い男がカードを胸元に差し込んでいったの」

「フィンか?お前の顔に傷つけたヤツ」

「多分。見た目は違ったけど、声が似ていたし、何となくそんな感じがした」

「ヤツは変装の名人なんだよな?」

「ああ」


答えながらカードに書かれた言葉を見たキャプスはそのまま固まった。


「何が書いてあったんだ?」

「すぐ屋敷に戻る!」


キャプスはカードを床に放り出すと駆け出して行った。


フェスタは急いで床に落ちたメッセージカードを拾い、書かれた内容を確認する。


『ラビィは警告。ボスの大事な人はどうなっているかな?』


「大変だ!エリールが危ねぇ!」


カードの内容を見たラビィも血相を変えた。


「私は、警告だったのね……エリール様が危ないわ!フェスタ様すぐ彼女の元に行って!」


フェスタはさっきまで怯えて泣いていたラビィが、毅然として好きな女を助けに行けという言葉に驚いたのだった。

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