◆第五章 決着へ

ラビィ誘拐される

エリールの受難など知らないフェスタはラビィとのランチを終えると、午後の授業を終えていつも通り劇場へとラビィを送って行った。


指示されてラビィに付いているものの、これといった事件も起こらず怪しい気配もない。


(もうラビィに付いていなくても大丈夫なんじゃねえか?)


これ以上ラビィの側に付いていることはムダな気がしてこないでもなかった。劇場での騒動後、怪しい組織から守るために自分がラビィの側にいることが必要だと言って護衛を続けてはいるが、こうも変化が無いと自分が何をしているのか分からなくなってくる。


さらには、キャプスからは“ラビィが使えるようならばスカウトしろ”と言われたこともあり、ラビィには“警備隊とは別に街の治安を守る組織がある”と、伝えてしまったせいでラビィも組織の仕事に加わることになり、より面倒なことになっている。


(オペラ座での観劇にパートナーとして連れて行けば、エリールにケンカを売るし......めんどくせえ)


ラビィ自体がイヤなわけではないが、エリールを好きな自分としてはいつまでもラビィの側にいるのはマイナスでしかないと感じていた。ラビィは自分に惚れているようだが.......。


(仕事上のパートナーとはいえ、一方が恋愛感情を持っているとやりづれえ)


ラビィはヒマがあればフェスタの世話を焼きたがる。イメージしていた姿とは異なり、ラビィという女はこれだと思った男には一途に尽くすタイプらしかった。


「ラビィ、帰り一応は迎えに来るけどさ……」

「一応って何よ。私を守ってくれるんでしょう?」

「ああ……」

「気のない返事。エリール様がキャプス様のお屋敷に住むことになったから悩んでいるんでしょう?」

「知ってたのか?」

「女子の情報網ってスゴイんだから。ところでね、私がフェスタ様と付き合っているって認識されてから、女子にもやさしくしてもらえるようになったのよ」

「それは良かったな。......まあ、オレの方の事情が分かっているなら早く行けよ。迎えに行くから」

「もう!」


プンプンした様子でラビィが関係者入口から楽屋の方へと向かって行く。フェスタはやれやれと来た道を戻ろうとして、何となく関係者入口の方を振り返った。


(何だ、アイツ?)


劇団員ではない怪しい男がラビィを追って関係者入口に入って行くではないか。


(ラビィを狙っているのか!?)


急いで関係者入口まで戻り、楽屋の扉を開くと誰もいなかった。急いで劇場内を探すがこの時間帯はまだ劇団員もあまりおらず、ラビィの姿を知る者はいない。


事務所に行くと、フェスタを歓迎する様子を見せるラビィの両親を遮って“ラビィはどこか”と尋ねた。


「ラビィなら今日は新しい小道具が届くので搬入口にいますよ。なに、ほかの劇団員も手伝っていますから心配いらないでしょう。手伝っている劇団員は元、警備隊出身だと言ってましたし」

「戻って来たらお茶でもしましょう。あなたは我が劇団の恩人なのですから」

「裏口に行って確かめてくる!」


フェスタは胸騒ぎがして劇場の搬入口へと急ぐ。すると、警備隊出身の劇団員だとかいう男が大の字になって地面に倒れていた。


(チッ!どこが警備隊だよ、こんなヤワなヤツが警備隊なんかにいるワケねぇ。ウソついて雇われたな)


「フェスタ様!」


くぐもったラビィの声がしてまわりを見ると、ラビィが荷馬車の後ろに押し込まれるところだった。口に布を噛まされながら必死にフェスタに叫んでいる。手も後ろで縛られているようだ。


「ラビィ!!」

「この女を返してほしけりゃ、オペラ座まで来いよ。ちゃんとご主人様にも伝えてからな!」


アゴひげを生やしたメガネ男はフェスタに用件を叫んで伝えると、荷馬車に乗り走り去って行った。


「あの野郎!!」


(自分が付いていながら何でこんなことになっちまったんだ!)


フェスタは自分の気が緩んでいたことを責めた。劇場への送り迎えをしてやれば大丈夫だと思い込んでいたのだ。時折、警備隊も巡回に寄るようにしていたし、フェスタとしては完全に不意を突かれた感じだった。


ラビィの怯えた顔がフェスタの胸を締め付ける。


(オレが.......オレが適当な気持ちでやっていたからいけないんだ)


キャプスは劇場に戻ると、ラビィの両親にラビィが攫われたことを手短に話し、取り返しに行くと伝えて劇場を急いで出て行こうとした。


「キャプス様!!ラビィは、ラビィは大丈夫ですよね!?」


ラビィの母親が涙ながらに必死に聞いてくる。


「......絶対助ける!アイツらは許さねぇ!」


低い声で答えるとそのまま劇場を飛び出した。街に散らばって暮らしている組織の者を見つけ、キャプスへの伝言を頼んだ。フェスタはそのままオペラ座へと向かって走って行く。伝言を頼まれた手下が急ぎキャプスの屋敷を訪れると、屋敷内も騒然とした雰囲気になった。


「ラビィが攫われた?フェスタはオペラ座に1人で向かったのか?」

「はい、走って行っちまいました」

「あのバカ!」

「急いでこの辺りの手下にオペラ座に向かうように伝えろ」

「承知!」


配下は屋敷を急いで出て行く。キャプスはパイクらを集めて作戦会議を始めた。


エリールはオヤツに焼いたパイを皆に振る舞おうとしてパイ皿を持って居間にやってきたが、皆のただならない様子に困惑する。


(何が起こったの?)


マルタが目の前を通ったので、捕まえて事情を聞いた。


「ラビィが例の敵対組織に攫われたんですよ。緊急事態です」

「え!」


(ラビィはフェスタが守っていたんじゃないの?)


色々なことが頭に浮かんだが、ラビィが無事でいることをエリールは願ったのだった。

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