意識の変化〈キャプス視点〉

今日も学園にエリールと手をつないで向かう。


エリールはすっかり慣れたようで朝からガンガン話しかけて来る。


「今日の夕飯は何がいい?」

「何でもいい」

「何でもいいが一番困るの!」


むくれた顔をするエリールの顔にも慣れた。最初にエリールの兄達に妹が学園に通うから宜しくと紹介された時は、随分と大人っぽく落ち着いた娘に見えたものだが。中身はだいぶというかカナリ違う。


思わず笑うとエリールが不思議そうにこちらを見た。


「思い出し笑いする人はイヤラシイって言われるのよ?」

「何だそりゃ。君が随分と最初のイメージと違うなと思っただけだ」

「あー、前に話したことでしょ」

「話したな。オレの印象はどうだ?変わったか?」

「キャプス様は……いつもクール。だけど、ほんのちょっぴり仲良くなると1人称が“僕”じゃなくて“オレ”になるってことが分かったかな」

「ああそういえば……そう言っているかもしれない」

「ちょっとは心を許してくれた?」

「何でそんなこと聞くんだ?」

「だって、いつも気を張っていたら疲れちゃうでしょ?私といる時くらいリラックスすればいいじゃない」

「リラックス……そんなこと考えたことなかった。これが普通だからな」

「じゃあ、私に甘えていいよ」

「甘えられるか!君はオレに随分と甘えているよな」

「イヤなの?」

「そうやって見上げてくるな……子ウサギの姿なら甘えられるかな」

「じゃ、帰ったら変身してあげようか?」

「……イヤいい」

「遠慮しちゃって~」


エリールはいつもこの調子だ。寮から出たいから家を紹介しろなんて言ってきた時と違ってすっかり自分に気を許しているらしい。


エリールの教室前で別れると自分の席についた。以前より近寄って来る令嬢が減ったが、幾人かはまだ寄って来る。


「キャプス様、おはようございます!」

「キャプス様、ここの問題教えていただけませんか?」

「キャプス様……」

「君達、ちょっと朝からやかまし過ぎないか?後でにしてくれ」


(朝からうっとおしい。エリールぐらいの話しかけ方ができないのか)


アレ?と思う。エリールも騒がしいはずだ。なのに、エリールのおしゃべりは許容できる自分に気付いた。


(一緒に暮らすうちに慣れたのか……?)


自分を取り巻くうちの一人の令嬢をジッと見つめてみる。見つめられて頬を赤くしている令嬢を見ていると、何がエリールと違うのか何となく分かった。


(分かった!エリールはこいつらと違ってオレに媚びてこないんだ)


そうかそうか、と一人うなずいたのだった。


午前の授業を終えるとランチの時間になるが、ランチは大抵、友人の男子生徒達と食堂で食べている。


今日もその予定だったが、仲間の1人が最近できた彼女とランチを食べるからと抜けて行った。残った友人はうらやましいと、やっかみながら話をしていたが“オレも出会いを求めて図書室行ってくるわ!”と行ってしまう。


(図書室で出会いなんてあるわけないだろ)


心の中でツッコミながら、友人達とのランチの時間が思うよりも早く済んでしまうと、ヒマになって学園を偵察兼ねて散歩でもしてみるかと思い立った。


中庭に行くと、カップル達に交じってフェスタとラビィがいる。ラビィは盛んにフェスタに話しかけているがフェスタは上の空で返事をしていた。おそらくエリールのことでも考えているのだろう。


彼らに会うと面倒だと思い、中庭を通り過ぎて奥の庭園に来ると、険しい女子生徒の声が聞こえてきた。


(女はどうしてこういつもうるさいんだ)


「ちょっと!あなたキャプス様といつも馴れ馴れしいのよ!」


思わぬところで自分の名前が出て驚いた。文句を言われているのはエリールか。


「だって、恋人なんだから馴れ馴れしいって言われても……」

「男爵令嬢ごときが身分不相応だというのよ!」


ドンという音が聞こえて、思わず修羅場となっている場に飛び出した。


「何してるんだ!」

「キャプス様!」


見てみれば自分のクラスの女子生徒達に囲まれたエリールがいた。突き飛ばされたのか尻もちをついている。猛烈に腹が立った。エリールを支えて立ち上がらせると取り囲んでいた令嬢達に冷たい声を出す。


「突き飛ばしたのは誰だ?」


誰も答えない。


「エリール、誰だ君を突き飛ばしたのは」

「……」


何故だか、エリールも答えようとしない。


「やさしいエリールは言う気にはならないそうだ。君達、覚悟するといい。しっかりと抗議させてもらうぞ」

「わ、私達は上位貴族に対する礼儀がなっていないので指導していたまでですわ」

「1つ教えておこう。先日、エリールを叩いた伯爵令嬢は今、学園を無期停学中だ」

「そんな!私達も停学になれと?」

「君達はそういうことをしている。反省してくれ」

「原因をつくるエリール様に責任があるのでは!?」

「何だって?」


いかにエリールが気に食わないかの理由についてツラツラと言葉を並べて来る女子生徒達に、さらに腹が立った。会話さえも面倒になり、エリールを抱き上げるとさっさと馬車寄せの方へと歩いて行く。


「大丈夫だったか?」

「ええ。割と普通のことかと」

「何だって?あれが普通だと?」

「金髪にグリーンの瞳の麗しい伯爵様はモテるんですよ?」

「バカを言うな。このまま帰るぞ」


(エリールに危害を加える者がいないように、もう少し見せしめの例を作らねばならないようだな)


エリールのために自然と物騒なことを考える自分がいた。


馬車寄せに来ると、学園専用の乗り合い馬車にエリールを乗せて2人で帰宅したのだった。

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