フェスタのキス
フェスタのくちびるの感触にエリールは嬉しいというよりも、懐かしいと感じて不思議な気持ちがしていた。
「そこまでだ」
いつの間に玄関ホールに来たのかキャプスの声が後ろから聞こえた。フェスタがハッとしてエリールから離れる。
「心配して様子を見に来てみれば、案の上、フェスタは暴走しているようだ」
「エリールと2人でいたらそりゃそうなるだろ」
フェスタはキャプスに言い返している。
「今は、仕事とはいえエリールはオレのパートナーだ。お前のパートナーはラビィ。間違えるな。外で誰かに見られたら面倒なことになっていたぞ。もうこんなことするなよ。ホラ帰れ」
追い出されるようにしてフェスタは屋敷から出された。扉を閉めたキャプスはエリールの方を向くと、厳しい声を出す。
「君はいつも油断しすぎだ。フェスタとやり直すとしても今はダメだ」
「……やり直さない。キスしても何も思わなかった。懐かしいと思っただけ」
エリールがキャプスを見てキッパリと言うと、キャプスは何を思ったのかエリールのくちびるを親指でぬぐう。
「じゃあ、よく洗い流しておけ。今の君はオレという恋人がいるんだからな」
そう言うと、歩いて行ってしまった。キャプスになぞられたくちびるにエリールは手を当てる。
(まるで嫉妬している恋人みたい......)
“でもそんなわけないわよね!”と、エリールは気を取り直すと部屋に戻ってくちびるをナプキンでぬぐった。さっさと着替えてマルタと夕食の支度にとりかかることにする。
「今夜は鶏肉のミンチを使ったヘルシーなハンバーグよ!」
さっそく調理にとりかかると鶏肉のミンチにパン粉・卵・片栗粉・塩・砂糖・玉ねぎのみじん切りをいれて練る。ひたすら練っているとマルタから声をかけられた。
「お嬢様、練り過ぎなんじゃないですか?」
「ああ、さっきのこと考えてたらつい」
「フェスタ様にキスされてましたね」
「見てたの?」
「この屋敷にいる者は大抵見てるんじゃないですか?偵察なんかもやってますからね」
「みんなに見られていたなんてハズカシイ」
「一番、恥ずかしいのはフェスタ様じゃないですか?あんな風にボスに追い出されて」
「......私、フェスタに冷たいと思う?」
「いいえ、仕方ないでしょう。同情と愛情は違いますから」
「マルタってよく分かってるのね」
「これでもお嬢様よりも8つも上なんですからね、人生の先輩です!」
そんなおしゃべりをしながら鶏肉のハンバーグを作ると、最後にケチャップとソースとバターでサッと煮詰める。うーん美味しい香りがしてきた!
「できたわね!」
エリールは自分の自信作を皆に食べてもらえると思うと嬉しくなる。
「お嬢様はボスを呼んできていただけますか?私はクマ&ハチとで用意をしておきますので。 ホラ、アンタ達も手伝いな!」
「うぃーすッ!オレの方も付け合わせのジャガイモゆで上がったぜぃ」
今日も調理場は賑やかだ。後はマルタ達に任せてキャプスを呼びに行く。3階まで上がるのもいい運動だ。
「キャプス様―!夕ご飯ができましたよ!今日は鶏肉ハンバーグなの!」
「何だ騒がしい?また君が夕飯を作ったのか?」
文句めいたことを言うわりに、キャプスは呼びに行くとすぐに扉を開ける。
「またって。言ったでしょう?私は料理が得意なの。料理ができるから楽しいわ」
「好きでやっているならいいが。毎日、頑張らなくてもクマ&ハチがいるから無理しなくていいんだぞ?」
「はいはい、疲れたら彼らに作ってもらいますから。さあ!温かいうちに食べて!」
エリールはキャプスの背中を押して食堂へと向かう。背中を押されたキャプスはしかめっ面だ。
「あはは!キャプス様ったら、しかめっ面!」
キャプスの顔をのぞきこんでキャプスをからかっていたエリールは、下を見ておらず階段を踏み外した。
「キャーッ」
何かに掴まろうとして空中で手を振り回すが何も掴めない!
「おっと!興奮しすぎだ。大丈夫か?」
転げ落ちそうになったエリールを素早くキャプスが抱えてキャッチしてくれた。
「た、助かった~」
「君はおっちょこいでもあるな」
「だって、キャプス様の顔がおもしろくて......いえ、早く温かいハンバーグ食べてもらおうと考えていたら転んじゃった」
「屋敷の中でも手をつながなくちゃいけないようだな、ホラ手を」
キャプスがエリールの手を掴むと、手をつないで階段を降りる。
「子どもみたいでごめんなさい……」
「全くだな。だが、新鮮な気分だ。オレは兄妹がいないし」
(妹キャラとして認定されたってことかしら……)
エリールは外見的には大人びて見えるため、まわりからは勝手にクールビューティーだなんて言われることが多いが、実際はそそっかしいし、甘ったれだし全くイメージとは異なった。
「私、見た目のイメージとかなり違うって仲良くなった人からは言われるの」
「だろうな。オレも君がそんなホンワカした人間だとは思っていなかった」
「ガッカリしてる?」
「いいんじゃないか、意外性があって。問題ないだろ」
彼なりの慰めなのかな?とエリールは思いながら食堂へつくと、手をつないできたエリール達を見た皆の目が何だか生温かい。キャプスはエリールの手をサッと離すと、何事もなかった様子で自分の席についた。
(そういえば、階段を降りた後も手をつないだままだったわね)
エリールは自分のそそっかしい部分を直さなきゃ!と思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます