兄達の帰宅とフェスタの葛藤
兄達は何だかんだでキャプスの屋敷にそのまま泊り、キャプスと夜遅くまでお酒を飲んでいたようだった。
明朝、エリールが食卓に胃にやさしそうなおかゆを出すと、兄達はめちゃくちゃ喜んだ。
「エリールは料理もできるし、最高の嫁になりますよ!」
「お兄様、また余計なこと言って。黙って食べて!」
エリールが叱ると、イカツイ兄達はシュンとする。そんな様子を見たエリールは“カワイイお兄様達!”と、さらに甲斐甲斐しくお世話をした。兄達は目を細めて何かにつけてエリールをすぐに褒める......。
「......エリールがどうやって出来上がったのか分かったような気がする」
「ん?どういうことですボス?」
「お前達が褒めるから
エリールはキャプスの言葉に何だか含むものがあるような気がしたが、兄達はそのまま額面通りに受け取った。
「エリール良かったな!ボスに褒められているぞ!」
「......そうかしらね?」
こんなに妹に一生懸命になってくれるお兄様達の方こそ素晴らしすぎるとエリールは思う。そんな思いを胸にワイワイと賑やかな朝食を終えると、エリールとキャプスは学園に向かう時間となった。兄達は早くも領地に戻るらしい。残してきている母を心配している様子だ。
「お母様に宜しく伝えてね。また近いうちに帰るから」
「ああ。エリールが成長したこと、きちんと伝えるよ」
「ゴーツお兄様!ミュークお兄様!」
エリールが兄達に抱きつくと、兄達もエリールをやさしく受け止める。ハグの応酬だ。キャプスはエリール達の別れが済むまでしばらく待たされることになった。
エリール達が歩き出すと兄達は手を振りエリールも勢いよく手を振る。“ヤレヤレ”とキャプスはその様子を見ていたが、エリールが急に手をつないできたので驚いた。
さっそくゴーツ&ミュークの茶化す声が聞こえてくる。
「何もあいつらの前で手をつながなくてもいいだろ」
「つい習慣で。自分でも驚いたわ」
恋人のフリをするようになってからエリールはいつの間にかキャプスと手をつないで歩くのが習慣になっていたことに気付いた。
「まあいい。早く行こう」
足早に学園に向かったのだった。
授業が済むと、キャプスと共に屋敷に戻る。一緒に登校するようになってエリールが早くも一緒に暮らしていることがまわりに知れ渡っているようだった。
屋敷に戻って与えられた部屋で片づけをしていると、玄関の方で騒がしい声が聞こえて気になって玄関の方へ行くと、フェスタがパイクと言い合いをしていた。
「ちょっとキャプスと話させてくれよ!」
「勝手に押しかけてきて! アンタ何度目です?」
「話したいことがあるんだよ!」
(モメてる。私がここに住むのが気に入らないのね)
キャプスに文句を言うつもりなのだろう。前も文句を言いに来たと聞いている。迷惑をかけたくないと考え、エリールはフェスタの前に出る。
「フェスタ。何を騒いでいるの?」
「エリール!やっぱりここに住んでいるんだな?何でだよ」
「何でって。都合がいいからよ」
「何の都合だよ?」
「ここの方が学園に近いし、オペラ観劇でもうすでにカップルだと思われているし。色々とお手伝いもしやすいし」
「近いからってここに住むことねえだろ。学園の寮に戻ればいいじゃねえか。オレと一緒にいれば仲直りしたんだって皆も思う。それで元通りだ」
「私は、あなたとやり直すつもりはないわ」
「エリール!オレは諦めきれねえ!お前じゃなきゃダメなんだよ!」
「じゃあ、あんなことしないでほしかった」
いつかの会話を再現している感じだ。もう終わったことなのに。
「ラビィといるからか?あれは仕事だ。特別な感情なんてない」
「ラビィは違うみたいだけど。あなたに守られて彼女も組織に協力することを決意したんでしょ?そんな彼女をあなたは守らなきゃいけないと思うわ」
「エリール……」
「ひとの玄関先で何を騒いでいるんだ?」
キャプスがやって来てしまった。
「とりあえず、中に入れ」
居間に皆でぞろぞろと入る。マルタも来てお茶を用意してくれるが、雰囲気は良くない。
「キャプス、エリールを何でここに住まわせるんだ?」
「彼女も言っていたが、都合がいいんだ。前にも言ったが既に彼女はオレのパートナーとして認識されている。こちらは女除けができるし、彼女も名誉挽回できて一石二鳥だ。ゴーツ&ミュークもここにエリールが住むのは問題ないと言っている」
「何だって!?エリールの兄貴達が?」
「とにかく、フィンが暗躍しているうちはラビィと組んでもらうし、オレもこの関係を利用する。お前は引き続きラビィを守れ」
フェスタは悔しそうに口を曲げている。“フェスタのこんな顔、あまり見たことがない”と、エリールは思う。フェスタはエリールにはいつも笑っている顔しか見せたことが無かった。エリールは、フェスタも組織で仕事をしている一員なんだと改めて感じる。
エリールはフェスタが帰るのを見送ることにした。マルタもついてこようとしたが止める。エリールは彼に伝えたいことがあった。
エリールとフェスタが並んで歩くのは久しぶりだ。キャプスよりも背が高くガッチリとしたフェスタをよく見上げながら話していたなと、エリールは思い出していた。今はラビィが見上げながら話しているのだろう......。
「フェスタ、いつも私には笑っている顔しか見せなかったけど、いつも私の知らないところで組織の仕事を頑張っていたのよね」
「エリールには組織のことを少しでも感じさせたくなかったから……何で、組織の仕事を手伝おうなんて思ったんだ?」
「お兄様達やフェスタやキャプス様が守りたいもののために動いているのを見て、私にも何かできないかと思ったの」
「……オレ達を見てなのか。一つ言わせてくれ。オレは何年でもエリールが許してくれるまで待つ。不謹慎かもしれないけど、エリールが組織の手伝いをするって言うのを聞いて、つながりができたと安心しているんだ。同じ組織内ならオレも目を光らせられるし、知らない間に誰かにエリールをかっさらわれることも無いから」
「フェスタ……ラビィはどうするの?」
「ラビィは仕事上のパートナーだ。彼女はオレに恩義を感じているようだけど、オレは彼女の気持ちに応えるつもりはないよ」
「何でそんなに私のことを想ってくれるの?」
「好きな気持ちに理由なんてないだろ」
フェスタはエリールを抱きしめる。抱きしめられてとても懐かしい気持ちがしてしまうのは何故だろうと、エリールは感じた。
懐かしいフェスタの香りを強く感じたと思うと、エリールのくちびるをフェスタが奪う。
フェスタは大胆にもキャプスの屋敷内でエリールにキスしたのだった。
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