兄達の来襲
翌日、キャプスと共にエリールが学園から帰宅すると、玄関ホールに仁王立ちしている兄達がいた。
「エリール!何があったんだ!?」
ゴーツがイカツイ顔でエリールに問う。
「これから説明するから.......お兄様達は元気そうで良かった」
ミュークは黙ってエリールを見たまま、一言も発さない。‟コワイ”とエリールは震える。ちなみにゴーツとミュークは双子だ。イカツイ2人がそろって道を歩くと大抵の人はビビる。
パイクに案内されて居間のソファに兄達が座るとソファが小さく見えた。2人が座るとゆとりのあるソファもきつそう......。エリールは座るところがないのでどうしようかと迷っていると、キャプスが自分の横に座るように言ってくれた。
「ボス、元気そうで何より。辺境の方は落ち着いてますぜ」
“お兄様達、ボスの前だとこんな悪い話し方するんだぁ”と、エリールは新鮮な気持ちでやりとりを見ていた。
「そうか。それでだが、エリールがこちらにいるのは本人が話すと言うので、オレはあえて何も伝えていなかった。兄妹でよく話し合うといい」
一瞬、キャプスの方を責めるようにエリールは見たが、自分で説明はしなくてはと思っていたのもあり、事情を説明する。
フェスタの浮気疑惑からラビィの劇団の騒動、ラビィの組織入り、エリールはキャプスとオペラ観劇に行くうちに自分も何かの役に立ちたいと思うようになったというようなことを話した。
兄達が食いついたのはヤハリあの部分だった。
「フェスタの野郎!浮気しやがったのか?で、その女と今は仕事で組んでるって?アイツを
物騒なことを言うミューク。誓って言うが、普段はこんなコワイ言い方なんて絶対にしない人だ。(エリール談)
「アイツ、調子にのってやがるじゃねぇか......。相談されるのを人気があるのと勘違いしやがるとは。
ゴーツも普段はとーっても優しい。怒った顔なんてほとんど見たことない。(エリール談)
「お兄様達!それはもういいの。ラビィって子が劇場をどうにかしたくて誘惑したみたいで。だからってフェスタは許さないけど!裏切ったのは確かだし。でも、今はすごく後悔しているみたいだし、もう忘れることにしたの」
「確かに、つまらない男にいつまでもこだわるのは時間のムダだ」
「だが、それとエリールが組織の仕事をするのは別だろう」
少し落ち着いたと思ったところにミュークが痛いところを突いてきた。
「お前が協力できることなんてないだろう?」
「そんなことないもん!私だって役に立てることもあるんだから。もう、あの例のスキルは私が決意してキャプス様に見せたし」
エリールがキャプスを見ると、キャプスはとばっちりを食らったような顔をしている。仕方なくキャプスも口を開いた。
「ああ、見せてもらった。彼女は本気のようだ。とても貴重なスキルだが、使うかは考えあぐねるところだ」
「あれは、カワイイが実用的じゃねえ。ひい爺さんがワシに変身できたとは聞いていたが、面白おかしくした逸話みたいなものだと思っていた。だけど、エリールにその能力が現れた時はとんでもないって思った」
ゴーツが心配そうに言う。私、そんなに心配されるようなスキルなのかしらとエリールは思う。
「私、お兄様達みたいに力があるわけじゃないけど、この能力が活かせたらいいなと思ったの」
「止めてくれ。お前には普通の幸せを掴んで欲しいんだよ」
「......そんな、お兄様達だって幸せになって欲しいって私はいつも思ってる!お兄様達だけに危険なことをさせたくないの!」
エリールが大きな声で言うと、ゴーツ&ミュークは目に涙を浮かべ始めた。エリールの言葉に涙腺が緩んだらしい。
「お前には危険なことをさせたくない!父さんが死んだ時、あんなに悲しい思いをしたのを忘れたのか?母さんなんて何日も泣き続けたろ?思い直せ」
ゴーツが泣きながら言えば、ミュークも泣きながらエリールに言う。
「お前や母さんはオレ達が支えるから普通の幸せを掴めよぉ」
兄達が泣くから、エリールも大量の涙を流し始めた。
「ゴーツ&ミュークお兄様達ぁ~大好きです!大好きだから私もささやかながらここでできることを探したいのぉ~!心配するようなことはしないからぁ!」
ワーワーと3人で泣きじゃくるグリール家の面々に引いたキャプスは、戸惑いながら“分かった”と一言告げる。
「......先ほども言ったが、エリールのスキルは凄いが実用として活かすとなるとちょっと難しい。変身を使った任務などはさせないつもりだ。今、協力してもらっているオペラ座の様子を探りに同行してもらうくらいだと思う」
「オペラ観劇と言えば……ボス、エリールと恋人と思われるということですね?」
ゴーツの目が鋭くなる。
「ああ。世間はそう思うだろう。フリだがな。フェスタと別れた今、彼女も恋人を作る気は無いようだし、オレも女除けに彼女といるのは都合がいい。......あと、母がエリールを気に入ったようでこちらに住まわせると良いだろうと
最後の方は言いづらくキャプスはゴニョゴニョと言う。
「ボス!!」
ミュークが大きな声を出したので皆ビックリした。キャプスは叱られた子どものような気分になり冷や汗が出る。
「ボス!エリールは美人じゃないですか!?」
「そ、そうだな?それがどうした?」
「フェスタの野郎なんてエリールを見た瞬間、惚れちまった!」
ゴーツが良く分からないことを言い出した。
「そうだな。それで?」
「だから!ボスの目は節穴なんですかって言ってるんです!」
「何だって?」
「おい、ボスになんて口きくんだ!」
パイクは気色ばむ。わわ、お兄様達、何やってるのかしらと、エリールは焦った。
「エリールを見て何とも思わないんですか!?」
「エリールは美人だな、性格も割と穏やかだ。抜けてるとも言うが……だが、心配しなくても惚れないから安心しろ」
「そっちじゃありません!!」
兄達はそろって声を出した。
「むしろ、手伝いをしたいなんて言い出したエリールを宜しく頼みます!とオレらは伝えたいんですよ!フェスタなんかよりボスの方が信頼できますからね! オレらは学園から帰って来た2人を見た時に、お似合いだと思いましたよ!」
「あ?」
「ボスは伯爵家だ。つまり家の格はフェスタよりも上だ!見た目もいい!それにフェスタより力のある男だ!」
「フェスタと比べるなよ。それに勝手に決めないでくれ」
要は、兄達は勝手にエリールとキャプスをくっつけようとしているのだ。エリールは非常識な兄達に冷や汗をかかされたのだった。
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