エリールの告白2
キャプスはエリールが膝に乗った重みで目を開いた。
エリールはキャプスの膝から彼を見つめる。キャプスは困惑して見降ろしていた。
「これは一体……カワイイな!」
エリールの身体を撫でるキャプスは嬉しそう。エリールはくすぐったそうに身体をよじる。
「で、なぜこんなところに子ウサギが?」
大人しく彼の手の中に納まったエリールは“私はここにいる!”と言うように彼の手に前足を置いた。だが、気付いてもらえない。両前足で連続して手を叩くと、ようやく彼は気付いてくれたようだ。
「……まさかだが、この子ウサギがエリールだなんて言わないよな?」
エリールは前足で彼の手のひらを叩いた。
「え?エリールだっていうのか?変身したのか?」
エリールは再び前足で彼の手のひらを叩いた。
「ウソだろ?めちゃくちゃカワイイじゃないか……」
キャプスはモフモフした子ウサギのエリールの姿をとても気に入ったようだ。ずっとライトブラウンのエリールの毛を撫でまわしている。顔を擦りつけてきそうな勢いだ。
「変身できるなんてすごい!」
そう、エリールは曾祖父と同じように“変身”スキル持ちだった。ちなみに曾祖父はワシに変身できたそうで諜報活動に非常に役立っていたと聞いたことがある。
「子ウサギになると言葉は話せないんだな?」
ポフッと前足で彼の手を叩く。叩いてはいるが痛くはないらしい。
「そうかそうか、それでどのくらい変身していられるんだ?」
ポフポフポフと手を叩く。
「3分か?30分?3時間?」
子ウサギに変身してしまうと思考はそのままだが、話ができなくなってしまうのが欠点だ。2回ポフポフした。
「30分か。そりゃすごいな~」
相変わらずエリールを撫でまわしながらデレデレした?キャプスが話す。彼がウサギを好きだなんて知らなかった。というか、キャラ変わり過ぎでは?と、エリールは少し引く。
「このこと、フェスタは知っていたのか?」
込み入った話はできないので、そろそろ変身を解こうと彼の膝から飛び降りて反対側のソファの後ろへと駆けて行った。
「あ、コラまだ話途中だぞ。くぅ、カワイイな。走る姿も......!」
ウサギ好きなキャプスが立ち上がり反対側のソファへと向かってくるではないか。これはマズイ!と思った時には遅かった。
「うわぁ!!」
キャプスは目を見開いてうずくまるエリールを見下ろしている。
エリールは変身を解いて生まれたままの姿......。前は辛うじて脱いだ服をかき集めて隠してはいるが、見える肌色の面積は大きい。
「な、なんで裸なんだ!」
「変身できるのは私本体だけなの!洋服は関係ないから!」
エリールは完全に見られていないものの、ほぼ裸の状態を見られてパニックだった。もちろん、フェスタにだってこんな姿を見せたことはない。
「ボス?悲鳴が聞こえましたが……!」
ボスの叫び声に異変を感じたパイクがいきなり扉を開いて部屋に入ってきた。見られたらどうしよう!とエリールは焦りまくる。
「パイクっ!入って来るな!」
「はあ?ボスは大丈夫なんですね?で、エリール様は?」
「何なのよ?騒がしいわね」
パイクだけでなく、なぜか旅行に行って屋敷にいないはずのキャプスの母の声も聞こえてきた。ヒールの音がこちらに近づいてくる。
「母さん、こちらに来ないでくれませんか!」
「何でよ?さっき帰ってきたら、エリールが来ているというじゃない。ドレスの話でもしようと思って顔を出したのよ。どこ彼女は?」
キャプスが静止するように言うも、彼女はツカツカと歩み寄ってくるとキャプスの立つソファの裏を覗いた。途端に、エリールのあられもない姿を見て彼女はギョッとした顔をする。サッと自分が羽織っていた大判のショールをエリールにかけると言った。
「あんた達!何でこの部屋で
「そういうんじゃない!!決して!!決して!!決して!!」
「あら、あんたがそんなに焦るなんて珍しい......とにかく、パイクは出て行きなさい! えーと、あんたもとりあえず出て!」
キャプスの母はパイクとキャプスを部屋から追い出すと、エリールに服を着るように指示する。
「あのねえ、時と場所をわきまえなさいよね。あの子が脱がせたわけ?」
「ち、ちがいます。あの、事情があって私が脱いだのです。彼を責めないでください」
「あらまあ、庇っちゃって。無理やりじゃないのね?」
「はい。それは間違いなく!」
「なら良かったけど。あなた、少し前にここに住んでいたわよね?」
「住んでいたというか、新居が整うまで少しお世話になりました」
「では、こちらに戻ってらっしゃい。ここにキャプスの婚約者として一緒に住むのよ!」
「ええぇ?なぜです?」
「なぜってあんた達、
言いたいことを言うと、キャプスの母はそのまま部屋を出て行ってしまった。エリールは制服を元通り着ると、どうしたらいいかとソファに座ってとりあえずキャプスを待つ。
「......エリール、もういいか?」
扉の外からやたら慎重な声かけがあった。“大丈夫だ”と伝えるとキャプスが入って来た。私の座るソファの反対側に座ると、彼は大きなタメ息をつく。
「......何か色々と起きたな。まず、君が“変身”できるのは心底驚いた。これは家族のほかに知る者はいるのか?」
「いいえ。フェスタにも言ってないわ」
「なぜ?」
「それは……変身する時に裸になる必要があるし……」
「変身すればどうせ縮むのだから事前に裸になる必要ないだろう」
「ああ、そうでした!久しぶりの変身だったからウッカリ服を脱いでしまったわ……!」
「全く、君は何をやっているんだ。変身後は問題あるがな。で、変身できる時間はどのくらいだ?30分でいいのか?」
「おおよそそのくらい。あまり変身してはいけないと言われていてその時間くらいしか試したことがなくて。昔、変身したまま庭に出たら野ウサギに追いかけ回されたことがあって、逃げていた時間が大体30分くらいだったかと」
「色々と危ないな。話せないようだし」
「そう、話せないのが厄介なの」
「君のスキルは大いに使えそうだ。だからと言って実際に使うとなれば難しいな。屋外ならばともかく、子ウサギが屋内にウロウロしていたら妙だ」
「私のスキル、役立たない?」
「そんなことはないが……とにかく癒されるな」
「ああそういえば、やたら私の身体中を撫でまわしていましたよね?」
「言い方!だって子ウサギだなんて可愛すぎるだろう。オレはモフッとしたウサギ、特に子ウサギが大好きなんだ。ハムスターとかは苦手だが」
キャプスがまさかの子ウサギフェチだとは思わずエリールは驚いたのだった。
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