◆第四章 新しい世界へ

エリールの告白1

エリールは数日悩んだ後、ある決意をした。


マルタに相談するととても反対された。“絶対やめろ”と半泣きで止められた。でも、エリールは決めたのだった。


(私の本当のスキルをキャプスに告げる。そして、私も組織で働く……!)


今まで、キケンから回避するべく組織に関わらせないようにエリールは家族に守られてきた。だが、兄達だって命を張っているのだ。


特に武闘スキルを持つ兄達は危険な仕事も多いだろう。祖母も怪盗スキルを活かして働いていたと聞いたことがある。母はたまたまスキル持ちではなかったので表立った手伝いはしていなかったが、亡き父や兄達のサポートをしていた。


(私にはスキルがある。スキルを活かしたい!)


そういう思いとラビィの吹っ掛けられたケンカとが合わさって、本当のスキルをキャプスに告げる決断をする要因になった。


学園に向かうと、いつものようにキャプスが校門前で待っている。こう毎日、校門で待っているからまわりの生徒もすっかり慣れてしまって、今ではキャプス達はカップルとして認められていた。


あの例のエリールを叩いた令嬢はしばらく学園を停学になり、正式な謝罪とお見舞金もエリールのために支払うことになった。キャプスの影響力はやはりスゴイ。


「おはよう。落ち着いたか?」

「もう大丈夫。あのね、今日の放課後、あなたに改めて話したいことがあるのだけどいいかしら?」

「また例の相談じゃないだろうね?」

「そのこと!あなたに真実を打ち明けるわ」

「やはりスキルを隠してたとか?」

「詳しくはあなたのお屋敷に着いてから見せるわ」

「見せる?」

「そうよ、さあ行きましょ!」


いつもはキャプスから手をつながれて歩いていたが、気合いが入っていたエリールは自分からキャプスの手を握るとズンズン歩いて行く。


「おい、オレが引きずられて歩いているようで恰好がつかないじゃないか」

「じゃ、しっかりついて来て!」

「何でそんなにやる気がみなぎっているんだ。もう!」


キャプスは早足で歩くエリールを引き止めるとエリールの肩を抱いた。まわりから女子の悲鳴が上がる。


「こうして捕まえないといけなくなるだろ。面倒くさい」

「行動と言葉のギャップがあり過ぎ」

「君が悪い」


仲良さそうに歩いているのに、小声で文句を言い合うエリール達は奇妙だった。


授業が終わるとエリールは宣言した通り、キャプスに自分のスキルを見せるため、キャプスの教室前で彼を待つ。いつも一緒に帰宅まではしないのでちょっとドキドキしていた。


「エリール、待ってたのか」

「だって、あなたのお屋敷に行くんだし!」

「しっ、大きな声で言うな。色々と勘繰られる」


エリールの無遠慮な?言葉にまわりの女子達はキャーなんて言っている。だが、覚悟したエリールはそんなことはどうでも良い気分だった。


エリール達は朝と同じように手をつなぐと校門まで歩く。フェスタはラビィを劇場まで送って行ってるらしいから鉢合わせしないようにと急いだ。


「そんなに急がなくてもフェスタ達には会わない」

「なぜ?」

「ラビィが熱出して見舞いに行くって言ってたから」


フェスタがお見舞いに……。モヤっとしたが考えないようにする。今日の私には人生を変えるかもしれない大きな目的がある!とエリールはモヤリとした思いを追い出す。


「そう、ならもう少しゆっくり歩くわ」

「ああ。君とこうして一緒に帰宅するのは初めてだな」

「そうね。 あ!あのドーナツ屋さんでドーナツ買って行ってもいい?」


エリールの決意はどこへやら、通りに出るとさっそく美味しそうな香りがしてくるドーナツ屋さんに惹きつけられた。


「ドーナツ?美味しいのか?」

「美味しいわよ。甘いもの食べないの?」

「あまり食べないな。何を買うんだ?」


興味はなさそうだが、キャプスが財布を出している様子からどうやらドーナツをごちそうしてくれるらしい。そんなつもりは無かったが。


「あれとこれと……パイクさんも食べるよね?お母様の分は?」

「母のはいい。また旅行に行って屋敷にいないからな。パイクはこれが好きそうだ」


あれこれ選んで結局、大箱に入れてもらうほどドーナツを買ってもらってしまった。しかも持ってくれる。


「ごめんなさい。ドーナツ買ってもらったうえに持ってもらっちゃって」

「普通、彼女が欲しいと言ったら、買うし持つだろ」


確かにフェスタもそうしてくれた。だけど、自分達は恋人のフリをしているだけなのにと、エリールは思う。


「でも契約的な……」

「あー、ホラだまって?」


肩を抱き寄せられる。何事かと思えば、学園の生徒がドーナツを買いに来ていた。


「君はさ、警戒心がなさ過ぎだな」

「ごめんなさい……」

「さっさと行こうか」


キャプスに肩を抱かれながら屋敷に向かうと、ドーナツのお土産にパイクが喜んだ。


「私、ドーナツ好きなんですよね」

「それは良かったわ。あのパイクさん、しばらく私とキャプス様の2人にしてもらっても?」


エリールがキャプスの方を見ると、キャプスもうなずく。


「分かりました。では、お茶の用意だけしてしまいますね」


エリールは馴染みの居間にキャプスと2人になると緊張してきた。お茶の用意も既にされている。


「改まって話ということだったが、どうした?」

「しばらく目を閉じていてもらえる?」


エリールは思い切って言った。エリールのスキルを証明するためには目をつぶっていてもらわないと色々と問題がある……。


「目を?なぜ?」

「私のスキルを見せるためには必要なことなの」

「やはりスキルが……よし分かった」


キャプスが目を閉じる。エリールはキャプスの座るソファと対に置かれているソファの後ろに回りこむと急いで制服を脱いだ。下着も全部脱ぐ。


「エリール、なにか衣擦れみたいな音がするが? まさかまたどうしようもない“誘惑”スキルなんて言うんじゃないだろうな?」


キャプスが言葉を言い終わると同時に、エリールはキャプスの膝に飛び乗ったのだった。

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