まさかのカップルと遭遇
初めてのオペラ観劇から2週間後、エリールは再びオペラ座にキャプスと共に訪れていた。
エリールは段々とドレスアップの準備も慣れていき、オペラの内容も楽しめるほど余裕が出てきた。上演後のオペラの感想などもキャプスに気楽な様子で話せるまでになっている。
「キャプス様、今日のドレスはどうでした?」
「この前より控えめでいいと思う。この前はかなり大胆で目立っていたから」
今日のドレスはブラックベースのキラキラと輝く生地で、胸元は控えめにV字に開いている。ウエストはドレスと同じ生地のベルトでシェイプされたAラインのシックなドレスだ。ベストの中央はジェエリーを使ったバックルがあしらわれていてシンプルながら目を惹く。ウエストから裾までドレープしたラインがとてもキレイ!と、エリールも気に入った。
「こんなステキなドレスをたくさんお持ちだなんてキャプス様のお母様は幸せなんじゃないかしら」
「あの人は、ドレスと男があればいいのさ」
「……私にドレスを貸してくれた意味ってどういうことなのかしら?」
「さあ、気まぐれだろう」
今日、エリールが着たドレスはキャプスの母が貸してくれたものだった。なぜだか分からないが、突然、エリールに自分のドレスを貸してあげるようにキャプスに言ってきたらしい。
キャプスとどんなやりとりをしたのか知らないが、キャプスが自分の母のドレスを勧めてくるとは思わず、エリールもビックリした。
実のところ、キャプスも母がそんなことを言ってくるとは思わず非常に驚いていたのだが。きっとフェスタに余計なことを言ったことを気にしたのではないかというのが彼の推察だった。
「とにかく、有効活用できて良かった。ドレスばかり増えて仕方無かったからな」
「大切に着させて頂くわ」
そんな会話をすると、この前と同じように腰に手を回されて会場の出口へと向かう。途中、偶然を装って会ったアーバンやアナスタシアの2人も来ていて、この前よりも気安い会話ができた。
「……川の……貧民街が……」
そんな単語が途切れに聞こえた。気になったが、エリールは聞こえないフリをしてほかの客達を見ていた。
そこそこの大きさの声でのやりとりに、こんな話をしていて大丈夫なのかと思っていたら、本日は自分達のまわりにいる客は組織の人間で固めているらしい。そんなに多くの組織の人が紛れていたなんてと驚く。どの人もオペラを楽しみに来ているようにしか見えない。
「ちょっと気になることがあって今日は組織の者を多く紛れさせている」
ふとキャプスが見た先をエリールも見ると、ドレスアップしたフェスタとラビィがこちらに向かってやって来たのでひどく驚いた。
フェスタはいつものラフな制服姿と違ってフォーマルスタイルで決めており、紳士的にラビィをエスコートしている。ラビィはピンクシフォンのドレスを着ており、上半身はピッタリとしたデザインなので胸の大きさが目立つ。
(スタイルの良さを見せつけているみたいで、なんかイヤな感じ)
エリールは前回、自分が着用していたドレスのことは棚に上げて心の中で毒づいた。
「やあエリール、とても!とてもキレイだ!」
フェスタは側に来るなりエリールを褒めた。
「フェスタ……私も見違えたわ。あなた達も来ていたのね」
「彼らにも協力してもらってる」
(協力してもらってる?ラビィも組織のことを知っているっていうの?)
ハテナが頭の中に浮かんだ。
「エリールの相手がオレじゃなくて残念だけど、今夜こうして会えたのは嬉しいよ」
「フェスタ……ラビィ様とお似合いね」
「エリール……」
エリールの言葉にフェスタは傷ついたような表情をする。そんな顔を見たからか、ラビィが話に入ってきた。
「褒めて頂きましてありがとうございます。お仕事も
ニッコリと笑顔をつくって言うラビィに内心、かなりムッとしたがエリールも笑顔で言葉を返す。
「私は関係ないでしょ。あなたも関係者になったのなら、まずはお仕事をがんばってね」
エリール達のやりとりを見たフェスタはオロオロし、アナスタシアとアーバンはニヤニヤしていた。キャプスといえば無関心そうにほかの方向を見ている。
凍りついていた雰囲気がいたたまれず、エリールはキャプスを馬車乗り場へと促した。別れの言葉も適当になりながら場を離れると、キャプスはエリールの手を掴んで引き留める。
「驚かせてすまない」
「そっぽを向いて関係ないフリしてたくせに。詳しく馬車の中で聞かせてもらえる?」
「ああ」
馬車に乗ると、キャプスは説明しだした。
「ラビィは平民だろ?我々貴族の立場よりも何かと動きやすいから使えると判断して組織に引き入れた。フェスタはかなり渋ったが、オレが指示したんだ。だから、今夜は2人で潜入に協力してもらった」
「彼女も組織の一員になるなんて……」
「劇場の後始末を組織でしてやったから彼女も恩義を感じているんだ。オレとしては良い人材が確保できたと思っている」
キャプスらしい合理的な判断とは言えるが、冷淡な判断にも思えた。組織のボスとしては必要なことかもしれないが。
「そうなの。私は一族が組織の一員なのに、私だけ関わらないようにしてもらっているのはおかしな話ね」
「君の場合は、家族の熱い要望があるからね」
自分を心配する家族の思いやりに嬉しく思いつつ、これでいいのかなとエリールは感じていたのだった。
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