フェスタの不満と宣言

授業を終えるとフェスタは真っすぐキャプスの屋敷を訪れた。


対応に出たパイクがフェスタの顔を見るとイヤな顔をする。


「なんで、イヤな顔をするんだよ」

「明らかにボスに文句を言いに来たんだなと思って」

「分かってんじゃねえか」

「元々は身から出た錆でしょう」

「それとこれとは別なんだよ。早く案内してくれよ」

「まだ、ボスはお帰りになっていないので居間で少しお待ちいただけますか」


居間に通されると、珍しくキャプスの母が居間に顔を覗かせた。


「あらフェスタさん、いらっしゃい。昨晩、あなたの彼女と一緒にいるキャプスをオペラ座で見たわよ。あの子、あなたの彼女を奪ったの?」

「奪われたわけじゃありませんが、その......オレの代わりでキャプスが連れて行ってくれたんですよ」

「代わりに?」

「ええ。都合が悪くなってしまったので。頼んだんです」

「その割には親密そうに見えたわよ?頬にキスしているのを見たし。舞台を挟んだ反対の席だったの。パートナーから“君の息子さんが令嬢と来てる”って教えてくれたからオペラグラスで観察していたのよね」

「頬にキスを?」

「怒っちゃった?あの子もそんなことするのね」

「母さん!何してるんだ!」


キャプスは居間にズカズカ入ってくると、母を居間から追い出した。パイクが文句を言う母を部屋まで連れて行ってくれたようだ。


「母がすまない。観劇に来ているかもしれないとは思っていたが、反対側の席にいたのは気付かなかった」

「頬にキスしてたって何だよ?」

「ああ、オレに付きまとっていた令嬢にエリールが扇で頬を叩かれたんだ。それで、その令嬢に見せつけるためにワザとキスした。触れた程度だ」

「おい!頬を叩かれたって何だよ!」

「騒ぐなよ。嫉妬した頭の悪い女がエリールを叩いた。その責任はしっかりとらせるから心配するな」

「そもそも何でエリールをオペラ座に連れて行った?仕事だとしてもほかの女を選べばよかっただろう?」

「同じ学園の令嬢が必要だったんだよ。いつもまとわりつく女子がうっとおしかったからな。それに、彼女には付き添ってもらっただけだ。仕事はさせてない」

「だとしても!オペラ観劇に2人で行ったらカップルって言ってるようなもんだろ!」

「それでいいと思ったが。彼女も当分、恋人を作る気はないそうだから」

「お前と付き合っていることになるじゃないか!」

「お前が言うか?元はと言えば、お前のせいで彼女がお前から離れることになったんだ。裏切るお前が悪い」

「分かってる。すごくよく分かってる!ずっと後悔してるよ!」

「過ぎたことはどうにもならない」

「お前、冷たいよ!」

「甘えるなよ。お前とラビィのことは仕事だって伝えてある。お前がこれからどう行動するかだろ」

「オレだってエリールにいいところ見せたいよ」


いきり立っていたフェスタがしょぼくれた様子を見せたので、キャプスは仕事の進展具合などを聞くことにした。


「劇場の方はどうだ?」

「変わったことはねぇ。目を光らせているからな」

「ラビィは使えそうなのか?」

「それもだけど、ラビィはオレが頼めば力になってくれると思うよ。だけど、イヤなんだよ。後ろ暗いことさせるのは」

「何も、組織で使う者は後ろ暗いことばかりさせるわけじゃない。仕事を与えられて生き生きとしている者だっているんだ」

「生き生き?」

「エリールは自分だって役に立てることもあるって馬車の中で泣いてたぞ。お前は何も話してくれなかったって。まあ、こちらとしてはペラペラ内情を話されても困るが」

「エリールがそんなこと……」

「とにかく今のお前はラビィに付いていることが仕事だ。きっちりと仕事をやれ。オレはエリールとは恋人のフリを頼んでいるに過ぎない。協力してもらう分、責任を持って守るつもりだ」

「……惚れないでくれよ」

「なぜ、親友の元彼女に惚れなくちゃいけないんだ」

「元彼女とか言うなよ。エリールは凄い美人だ」

「ああ、キレイだな。スタイルもいいし」

「スタイルと言えば!何であんな煽情的なドレスなんだよ!あんなに脚と胸が見えて!ダメだろ!」

「あー話が落ち着きそうだったのに、面倒なところに話がいったな。ドレスはマルタが用意した。文句があるならマルタに言ってくれ」

「マルタが?ちくしょう......!」


“オレの味方だったくせに!”と毒づくフェスタは文句を言いながらキャプスの屋敷を出て行く。


キャプスはフェスタが出て行くと、やれやれとソファに深くかけてタメ息をついたのだった。


翌日、フェスタは校門前で待つキャプスとエリールの前に来ると、ある宣言した。


「エリール、今はこんな状態だけど近いうち元通りになると思ってるから!見ててくれ!」

「フェスタ?」


一方的に言うと、フェスタは校舎へと走って行ってしまった。ワケが分からずキャプスを見ると、彼は腕を組んで校門にもたれたままだ。ほかの生徒からの視線が自分達に注がれている。


「フェスタ、必死だね」

「何なのかしらあれ」

「今度はこちらが話題になっているから妬いたんだろ」

「ああそういう……?」

「さあ行こうか」


キャプスはいつも通りエリールの手を取ると、手をつないで教室へと向かったのだった。

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