ドレス選び

キャプスが部屋を去るとエリールとマルタはソファにくつろいだ様子で座った。


「オペラ観劇って私が相手でいいのかしら?」

「気になるんですか?」

「だって普通、オペラ観劇って婚約者同士で行くものじゃない?ボスはオペラ観劇に私と一緒に出掛ける意味を分かっているのかしら?」


先ほどは、仕事の手伝いと言われたので特に聞かなかったが、開演時間の遅いオペラ観劇に行くのは婚約者同士のカップルとかよっぽど認められた仲の男女が行くところとして理解されている。もちろん、家族で行く場合や同性同士で行くこともあるが。


「まあ、そうではありますが。ボスに直々に指名を受けるのも名誉なことですし、何より危険なことが無さそうでしたので楽しめば良いのでは?」

「意外とお気楽なのね?」

「お嬢様のドレス選びができると思ったら楽しみになりまして」

「そっち?」

「こうなったらすごーくキレイにしていきましょうね!」


マルタが張り切り出した。キャプスに好きなドレスを選んでいいと言われたし、めったに着ることがないドレスを選ぶのは確かに楽しみだ。


それにしても、キャプスから度々言われる敬語禁止令だが、貴族社会ならば敬語で話すのは一般的だ。よっぽど仲が良い間柄ではなければタメ口なんかでは話さない。ましてやキャプスはうちの男爵家よりもはるかに格上の伯爵家なのだから。


(もしかして、学園で私がフェスタにフラれたんじゃないかってウワサを聞いたのかも……)


今日、クラスメートの女子から“フェスタとは別れたのか?”と聞かれた。“まあそんな感じ”と答えると、どうもその後の会話からするに、慰められている会話だった。どうやら、皆はフェスタが自分をフッて、ラビィと交際していると思っているようだ。


(フッたのは私なのに。浮気疑惑のことも皆には言わないでいてあげてる私が可哀そうに思われるのはシャクだわ)


敢えてまわりに別れた経緯について話さないのは、プライベートなことをまわりにペラペラ話すのも気が引けたし、フェスタが張り切って浮気らしきことをしたわけではなさそうなことや、皆に頼られることが多いフェスタのことを思ってわざわざ言わないでおいてあげている。


しかし、何だかムカムカする。傷ついたのはこっちなのに。


こうなったら、思わずキャプスも惚れ惚れするようなステキなドレスを選んでやる!という気分になった。


そういうわけで、さっそくマルタの手配でエリールは翌日の放課後にドレス専門店に向かった。


ドレス専門店に入ると、組織の息がかかっている店なのかオーナー自身が出てきて、エリールに愛想よく話しかけてくる。


速やかに私の身体の寸法を測ると、あれこれ既製品のドレスをいくつも出してきて提案してくれた。今回は、オペラ観劇まで時間が無いため、既製品のドレスベースに私の体型に合わせた寸法に直してくれるらしい。


「あなたは背も高くてスラリとしてスタイルがいいから、スレンダーラインとかマーメイドラインのドレスがおすすめね」


オーナーのマダムがおすすめしてくれたドレスがとても自分の体型に合ってステキだったので、ワインレッドのスレンダードレスにした。


胸の部分が大きくV字に開いていて、ちょっとというかかなりセクシーだけど全体的に上品なシルエットで、イヤらしくならず大人っぽく見せられそうだ。


「胸元が気になるようならアクセサリーをつけて目線をアクセサリーに向けるようにしたり、肩からショールを羽織ったりしてもステキよ」

「なるほどぉ......!」


エリールがベースとなるドレスを着てみると意外と胸があるので、確かに胸元のセクシーさが目立つ。


「アクセサリーもキャプス様から好きにしていいと言われておりますので」

「好きにしていいって言われても、アクセサリーは高いから勝手には買えないわ」


すると、オーナーのマダムが会話に割り込んできた。


「大丈夫です!先ほど、キャプス様からアクセサリーも見繕うようにと仰せつかりましたので」


そう言うと、警備員と共にアクセサリーの並んだショーケースを奥から運んできた。


「わあ!見るからにお値段が張りそうなアクセサリーばかりね。まばゆいわ!」

「キャプス様のエスコートなさるお嬢様ですもの。それぐらいでなくては」


このマダムが一体どこまでキャプスのことを知っているのかは知らないが、キャプスの名前を出せば全面的に協力してくれるのは分かった。


結局、お店で靴やらショールやら小物なども含めてトータルでそろえると、マルタが支払いの手続きをしてくれたが、目が飛び出るような金額だったらしい。今度、キャプスにお礼を言わねば。


お店を出ると、せっかく街に出て来たのだからとカフェに入ってケーキとお茶をいただいた。


「週末、あんなスレンダーなドレスを着るのだからダイエットしなくちゃいけないわよね」

「そう言いながらもケーキを食べてらっしゃいますけどね」

「マルタが食べて私が食べないなんてガマンできないわ」

「お嬢様がケーキを食べないなら、私だってケーキなんて食べませんでしたよ。でも、今日ぐらい大丈夫ですよ。明日からはヘルシーなオヤツを用意しますから」

「ありがとう~」

「週末はキレイにしたお嬢様の底力を世間に見せつけてやるんです!!」


マルタはこぶしを作りグッと上に突き上げている。かなりヤル気だ。


「世間に見せつけるって大ゲサな......」

「キャプス様とオペラ観劇なんて出かけたら、間違いなく話題になるでしょうからね」

「えぇ……」

「フェスタ様も仕事とは言え、ラビィとウワサになっているんです。お嬢様も割り切って楽しめばいいんです!」


マルタにキッパリ言われると、そういうのもいいかも!と、エリールは思えてきたのだった。

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