仲の良い2人を見ると...
劇場は元通り営業を続けることができていた。
警備隊の捜査は、定期検査だという名目で捜査したので騒ぎにならずに済んだ。劇場近辺にガラの悪い人間が多くなったことで、街の整備を進めようという計画もできて劇場を含めたエリア一体の外観整備が行われることになっている。特に人々に親しまれている劇場は補修の対象になる。
ラビィの両親は劇場の建て替えをするためにうまい投資話に飛びついて多額の借金を抱えていたから、補修の援助が受けられると聞いて泣いて喜んだ。フェスタの株は彼らの中で爆上りしている。
「フェスタ様、何から何まで本当にありがとうございました!」
ラビィの興奮した声が辺りに響く。
「いやあ、礼を言われるまでのこともしてねえ」
「そんなことないです!劇場も私も助けてもらえて感謝しかありません。私、ますますフェスタ様のファンになりました!」
思わずフェスタはまわりをキョロキョロと見まわした。ここは学園の芝生が広がる広場で、ランチを食べてる生徒もチラホラいるのだ。
「おい、あんまり大きな声でそういうこと言ってくれるな」
「皆がいるところでは敬語できちんと話していますよ?」
「そういうことじゃなくて、内容だよ」
「本心だから。私、フェスタ様のことが好きよ。アナタがあの方を好きでも」
直球で“好き”だなんて言われて、フェスタはドキっとした。ほかに大事な人がいると言っているのにそんなことを言ってくるなんて……。しかも耳元でささやくなんて……。
「アンタ女優だからな、良くないぜ。そういう冗談は……」
「アンタじゃなくてラビィ。冗談じゃないってば」
フェスタを見つめるラビィは本気で言ってるみたいで……。
「それはありがたいけどオレにはエリールが……あーもう、今はそのことは置いておこうぜ。とりあえず、ラビィ、お前はまだアイツに狙われる可能性があるからオレが側についているけど油断するな」
「分かってる」
「敬語はどうしたんだよ?人目があるだろ」
「小さい声で話してるから大丈夫でしょう?」
寄り添って話す彼らはとっても仲良く見えた。まわりの生徒はエリールとフェスタは別れてラビィと付き合っているものだと認識しだしているらしい。
芝生に敷物を広げてランチを食べるフェスタとラビィの姿を2階の渡り廊下から見かけたエリールは、胸がズキンと痛むのを感じた。
“フェスタは仕事でラビィといるだけ”
キャプスが言っていたが、今の様子を見るとどうも本当に仲の良いカップルにしか見えない。
(人の心って移ろうものよね……)
フェスタが素の表情をそのまま出している様子から、きっとあのラビィという子に心惹かれているのではないかとエリールは悲しくなった。
(私が許さなかったのが悪かったの?)
いつも側にいてくれたフェスタが今は違う女子の側にいる。別れを告げてからエリールはなかなか気持ちを切り替えられないでいた。足早に渡り廊下を過ぎる。
そんなエリールの様子をキャプスは教室の窓際から見ていた。
「少し、可哀そうだったか」
「何が可哀そうなんですの~?」
「キャプス様は悲しいんですの?」
独り言を聞いた女子生徒が話しかけてきた。つられてほかの女子生徒も集まって来る。
「ただの独り言だ」
煩わしくなったキャプスは教室を出て図書室に避難したのだった。
授業が終わるとフェスタはラビィに付き添って劇場まで行き、キャプスやエリールは帰宅の途についた。
エリールの新居の建物にはおしゃべり好きな組織に属している管理人さんがいて、エリールを見かけるといつも話しかけてくる。今日も、ニコニコ顔でしかけてきた。
「お帰り~、今日はボスが来るってよ」
「そうなの?」
「ああ、さっき連絡があった。このままボスがちょこちょこ顔見せてくれると嬉しいよな?」
「なぜよ……ボスが大変なだけでしょ?」
おじちゃんは気のいい人だったが、ズケズケとプライベートな問題に踏み込んでくるので、エリールもだんだん気安い口調で言い返すようになっていた。彼から見れば、娘を見守るような気持ちでいたのだが。
家に入るとマルタにボスが来るらしいと伝えた。
「ああ、さっき聞きましたよ。ボスはお茶よりもコーヒーが好きみたいですね。今日はコーヒーをお出ししましょう」
「コーヒー好きだなんて初めて聞いたわ」
未だにキャプスのことはよく知らなかった。彼自身が自分のことをあまり話さないのもある。
エリールの家は組織に関わってはいるが、家族の絆を大切にして基本的には何でも話して仲良く暮らしていたからエリールにとって、キャプスのような人は異種であった。
「とりあえず、ボスが来るまでに着替えちゃうわね」
制服を脱いでブラシをかける。この新居に来てからエリールも自分でできることは自分でやるようにしていた。
リラックスできるワンピースに着替えると、出された課題などをチェックする。
(ボスが来るまで課題でもやるか……)
昼間に見たストレスの原因を払拭するべく、エリールはキャプスが来る前に課題を終わらせようと課題に積極的に取り組んだのだった。
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