本性

泣き続けるラビィの前にイスを持ってきてフェスタも座る。


「オレ、アンタのこと見直したわ」


思わぬ言葉を聞いて泣いていたラビィは顔を上げた。


「……私はアンタじゃなくてラビィです。見直したって?」

「正直、色仕掛けで男をトリコにして貢がせてるのかなと思ってた」


ラビィは痛いところを突かれたと思った。間違ってはいなかったから。


「……否定はしないわ。だけど、それは全て劇団のため。目的のためよ」

「話し方が変わったな。それが本性か?」

「もうあなたの前で自分を演じたくないから。だけど、分かって欲しいの。劇団を存続させること、これが私の願いだということを」

「もうよく分かってるよ。営業も何とかできるようにはとりなすつもりだが……捜査中は営業はできねえだろうな」

「その程度なら……だけど、良からぬ薬の取引場になっていたなんて知られたら劇場に来る人が減ってしまうのが心配だわ」

「うーん、まあそこのあたりも考えておくわ」


フェスタは両手を天井に向かってグーっと伸ばしながら答えた。


(あんな緊迫した状況があった後なのに、この人はなぜ平然としているのかしら)


「フェスタ様、聞いても?」

「何だ?」

「あなたは警備隊のほかにも関わりがあるの?」

「ど、どういう意味だ?」

「アイツが警備隊のほかにも何かあるようなことを言ってたから……」

「そんなことねえ。警備隊は......仕事柄いろいろなしがらみがあるんだよ、詳しく言えねえけど」

「ふーん?」

「それより、アンタの両親や例の粉を確認しに行こうぜ」

「アンタじゃなくてラビィよ。行きましょ、案内するわ」

「ああ、よろしくラビィ」


フェスタがラビィと名前で呼ぶと、ラビィが微笑んだ。作りモンじゃないいい笑顔するじゃないかとフェスタは思った。


フェスタとラビィが事務所に訪れると、両親はイスに縛られていた。幸い、役者として活動している両親も目に見える傷はつけられていないようだった。


両親はラビィも捕らえられていたことを知ると、涙を流して助けたフェスタに感謝した。土下座しようとするのでやめるようにフェスタが何度も止めたぐらいだ。


倉庫に白い粉のビンを探しに行くと、どこを探しても薬は見つからない。立ち去った男の手下が全て持ち去ってしまったようだ。


フェスタは指示を仰ぐため、劇場を出てひとまずキャプスの元へと向かうことにした。キャプスの元へ向かう途中、見かけた組織の仲間に劇場を見張るように伝えておいたのでラビィ達は心配ない。


フェスタはキャプスの屋敷に着くと、事の次第をさっそくキャプスに報告した。


「ストライプ柄のアイツ、何者か知ってるか?」

「アイツは“ヒャルト”と名乗り、ここらでも商売を広げようとしているヤツだ。フィンという名の方が知られているが本名は誰も知らないという話だ。通称“変幻自在のフィン”と呼ばれている」

「変幻自在のフィン?何だ、変装でもするってのか?」

「そうだ。そのまま名前の通りだ。ヤツの本当の顔も知る者はいないと言われている」

「ヤツは背が高かった。身長はごまかせないだろう」

「イヤ、背丈も人によって証言が違うらしいぞ」

「そいつはすげぇ」

「とにかくアイツは今、各国で武器の密売から薬まで手広く商売している要注意人物だ」

「いつか仕留めなくちゃならねえわけだな?」

「うちの国で何かしようとするならな」


物騒な話が済むと、“さて”と、キャプスがお茶を飲みながらフェスタに話しかけた。


「……で、劇場をそのまま営業させてやりたいと?」

「そうなんだ。ラビィって女は劇団のためなら命も張れそうな女だぜ。なかなかそんなことできねえだろ。フツーの娘なら」

「ふうん。ラビィって子、使えそうか?」

「え?何考えてる?まさか組織に引き入れようなんてしてないよな?」

「それもアリだろう。彼女は平民で貴族よりも自由だ。演技力と知名度、度胸もあるとなれば欲しい人材だな」

「おい、やめろよな」

「何だ?惚れたか?」

「おい!」

「冗談だ。だが、ラビィの側にしばらくいろ。エリールには仕事だと伝えておいてやるから」

「本当か!?」

「ああ。その代わり学園でもラビィの側になるべくいろ。役立ちそうなら組織に引き入れろ」

「まだ、ラビィに接触してきそうだと思うのか?」

「ああ、跡をつけていったようだからな」

「跡?」

「ナイフの傷だ。アイツは気に入ったものにマークをつけるんだ、気持ち悪いがな」

「マジかよ、変態じゃねーか」

「ラビィのこと頼むな」

「分かったよ」


しばらく、今後のことなどを軽く話すと、フェスタはエリールのことが気になった。


「エリールの新居は落ち着いたのか?」

「ああ」

「もうちょっと情報くれよ」

「今は距離をとるんだろ?ホントはお前を再び近づけるつもりはなかったが。預かってる手前な」

「後をつけたりしねえよ。だけど、女2人で暮らしてたら心配じゃねえか」

「そこらへんは大丈夫だ。同じ建物に組織の者も何人か住んでいるからな」

「男だよな?」

「どちらもいる。心配しなくていい。お前とイカツイ兄貴達を敵に回すヤツなんていない」

「そうか……」


ホッとした様子を見せるフェスタに、キャプスはフェスタがエリールを諦めるのはまだ先になりそうだと思ったのだった。

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