フェスタ到来

フェスタは授業を終えると、ラビィの改めて相談したいという頼みからすぐに劇場に向かっていた。


(もしかして白い粉の話か?)


もし、ラビィが白い粉のことを知っていたとして自分にすぐに相談しなかったのは、警備隊の捜査を心配してだろう。営業停止となれば劇場は更なる打撃を受ける。場合によっては組織の力で営業を続けることもできるだろうが、組織を知らないラビィには知る由がない。


「まさか、ラビィ自体も薬やってねえだろうな……」


薬の後遺症が怖くなってオレに助けを求めたとかではないだろうなと、フェスタは懸念した。真実はどうだか今の時点では分からないが、何となくイヤな予感がする。足早に劇場へと急いだ。


楽屋の扉前まで来てノックすると、ラビィの声が中から聞こえた。


「今は集中したいので1人にしてもらえますか」


相談があると言って頼んできたのはラビィだ。おかしい。


「相談があると言ってたろ?」

「相談なんてありません。あなたの気を惹きたかっただけです」

「……気を惹きたいなら何でオレに会おうとしない?」

「気まぐれで……」

「アンタはそんなこと言わねぇ」


フェスタは勢いよく楽屋の扉を開いた。


すると案の定、男に拘束されているラビィの姿があった。鏡前のイスに座らされ、手は後ろで縛られているようだ。


ラビィの横には背が高く、ストライプ柄のスーツを着た色白の優男が立っていた。ナイフを持ってラビィのアゴあたりに突きつけている。


「お前、誰だ?」

「アナタはフェスタさんですね?初めまして。父は警備隊の一員であり、そして組織の……」

「おい、うるせぇ!お前、何してるんだ?ナイフを下ろせ」

「アナタが私を切りつけないなら下ろしますが」

「オレは刃物なんて持ってねえ」

「ウソですね。ジャケットの内ポケットに小さいナイフを仕込んでいるはずですよ」

「お前、何なんだよ」


内ポケットから小さなナイフを出すと床に投げ捨てた。


「これは人に使うものじゃないぜ。道具として使っているだけだ」

「用心に越したことはないですから。それで、ラビィから相談があると言われてやってきたわけですか?」

「そうだ。だが、話を聞くまでも無さそうだな。ラビィを離せ」

「今、アナタは不利だ。警備兵を引き連れてやってきているわけでもない。オレが指示すればアナタを始末するのは簡単だ。だが……そうすると面倒なことになりますね。必ず報復しようとするでしょう?アナタ方は」

「お前、分かっててナゼここに手を出した?」

「ウチだって色々と仕掛けて行かなくちゃあ商売を大きくしていけないんでね」

「もう十分、ケンカ売ってるぜお前は」


男とにらみ合う。ラビィは刃物を押し付けられている恐怖と今の会話のせいか蒼白な顔のままだ。


「もう1度言う。ラビィを離せ。その女はウチの国のモンだから勝手に傷つけることは許さない」

「ラビィをかなり気に入っているんですがねぇ」


突きつけたナイフの先がラビィのアゴ下に押し付けられる。ラビィの顔が歪んだ。


「おい!いい加減にしろ」


フェスタが怒りの頂点にさしかかったとみて、男は扉の方に向かってラビィを盾にしながら近づいて行く。


「また、いずれどこかで会えますかな?」


男はラビィを強く突き飛ばすと、扉を開けて素早く出て行った。


「大丈夫か!?」


ラビィを両手で受け止めると、すぐにナイフを突きつけられていたアゴのあたりを確認する。アゴ下にうっすらと血がにじんでいた。


「アイツゆるさねぇ。女の顔に傷つけやがって!」


怒りのままに立ち上がると、足元で“フェスタ様……”と呼ぶラビィがうずくまっていた。


「おい、腰抜かしたか?とりあえず、イスに座ろう」


後ろで縛られていた手首の紐を切り、ひどく取り乱してるラビィをイスに座らせた。


「お前、アイツが何者か知っているか?」

「この劇場の援助者だって父には言われました。だけど、アイツはそんなんじゃない!」


興奮したラビィが叫ぶ。


「落ち着こうぜ。順番に話してくれるか?」

「すみません……とても怖かったし悔しかったから……アイツは両親を脅していました。この劇場を守りたいなら言うことを聞けと。倉庫に白い粉のビンがあります。あれの取引にここを使っていたんです」

「お前はいつそれを知ったんだ?」

「少し前です。事務所に行くとアイツが両親を脅迫していて、会話を聞いた私はフェスタ様に証拠になるビンを渡そうと思って倉庫に急ぎました。そこで、アイツの仲間に見つかって……」

「オレを頼りにしてくれたことは嬉しいけど、1人でそんな危ないことするな」

「だって……私がやるしかなかったから……」


ラビィは激しく泣き出した。この子の劇団や両親を守りたい気持ちはとても分かったからフェスタはラビィの願う通り、力になってやろうと決めたのだった。

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