ラビィの決断

朝日が眩しい。ラビィは学園の寮で目を覚ました。


ありがたいことに学園での部屋は1人部屋でのびのびとして過ごせる。昨日の夜は劇場の舞台に立っていたのに、朝になると学園の寮で目を覚ます生活のギャップが面白い。


ラビィはいつも公演を終えると、用心棒でもある劇団員に寮まで送ってもらっている。学園の方でも特殊な状況のラビィに門限を伸ばす配慮をしてくれていた。


(この学園の生徒が劇場に来てくれたらホント最高よね。あんな気持ち悪い男に目をつけられるのはイヤだわ)


昨日、ストライプ柄の紳士こと援助者ヒャルトから触られた手の感触を思い出してまた気分が悪くなった。


(フェスタに相談してみよう)


肩を触られてから、自然とフェスタに相談したいと頭の中で考えていた。彼には劇団内で起きている怪しげな薬のことは知られたくないが、援助者が自分を狙っていると知ったならば、助けてくれるんじゃないかという思いがあった。


身支度をして朝食をとりに食堂へ行くと、フェスタが友人達と一緒に朝食をとっている姿を見つけた。


彼が友人達と話している時は極力話しかけないようにはしているのだが、学年が違う彼となかなか話すチャンスがないラビィは思い切って声をかけた。


「フェスタ様、皆様、おはようございます!ご一緒しても?」

「お!ウワサの看板女優ちゃんじゃん!」

「朝からモテるな!フェスタさんよ~!」

「うるせぇ、そんなんじゃねぇ」


フェスタの友人達は似たようなタイプが多いのか、ざっくばらんな話し方をする人が多い。すぐに空いている席のイスを座れるように引いてくれる。気遣いもできる人達のようだ。


「どうした?」


フェスタがラビィに用件を聞いてくれたので、改めて困り事を相談したいと話した。


「なら今日、授業が終わったら劇場に行く。今日は、選択クラスがあるから少し遅れるが先に劇場に行っててもらえるか?」

「はい!ありがとうございます!」


ペコリとお辞儀をすると、友人の男子生徒達が一斉になぜかラビィを褒めた。


「カワイイ~!」

「お前の彼女はキレイ系だけど、ラビィちゃんはカワイイ系だよなぁ」


(この人達、フェスタとあの地味令嬢が別れたことを知らされてないのね)


未だフェスタは地味令嬢から気持ちが離れていないようだ。相談を兼ねて彼と仲を深めたい。


「あの、フェスタ様のご友人の方々もぜひ、劇を観に来て頂けるとウレシイです!」

「行く行く!ラビィちゃん観にさ!」


ラビィが声をかけると大抵、こんな感じの反応だ。劇というよりもラビィを観に行くからみたいなことを言われる。“私が観て欲しいのは演技なのに”とラビィは思う。


「では、後ほど…」


素早く朝食を食べ終えると席を立つ。フェスタを見ると、こちらを見てうなずいてくれた。


(ああ、やっぱりフェスタはいいわ)


1日分の元気をもらった感じがした。


昼休みを挟み、授業を終えると、ラビィは劇場へと向かった。


人がまだ来ていない劇場は静かだ。いつものように事務所にいる両親のところに向かうと、話し声が聞こえた。


「お前らはオレの言いなりになるしかない。劇団を守りたいっていうんならオレの言う通りにしろ」

「そ、そうは言われましても……ウチの劇団員が薬物中毒なんてウワサも出始めたらしいですし、あんまりそういう話があると営業自体ができなくなりますので……」

「ウワサになったヤツは解雇したらいい。代わりはいくらでもいるだろう」

「そんな!あの子はいい役者でした!あの子の未来をつぶすことになるなんて……!」

「いいかい奥さん、ブツの味をしめたのはヤツだ。自分の意思だろう」

「お前、だまっていなさい……」


母をたしなめる父の声が聞こえる。普通じゃない会話が続いていく。


「とにかく、しばらく商売するにここは都合がいい。あと、お前達の娘だがあれはいいな」

「む、娘には何もしないで下さい!」

「オレの愛人にしてもいい。愛人がイヤなら妻にしてやってもいいぞ」


事務所の中の生々しい会話の内容にラビィは恐ろしくなった。そっと足音をさせないように事務所から去ると、楽屋の方へと向かう。


(劇団がこんなことになっているなんて……!私も狙われてるじゃない!もうフェスタの信頼云々というヒマは無いわ!今すぐにあの白い粉のビンをフェスタに渡して警備隊に取り押さえてもらうしかない!)


はやる気持ちを抑えてラビィは例の白い粉のビンがあった倉庫へと足早に向かった。念のため、後ろを振り返るが誰もついてくる様子もない。


(よし、誰もいないわ)


倉庫のドアを音がならないよう慎重に開けて中に滑り込む。奥の箱に向かって近づくとフタを開けて中にあったビンを探す。


短髪のカツラの入れ物を見つけ出すと、カツラの中に詰められた紙を取り除けた。


(あった!)


変わらず、白い粉の入ったビンはそこにあった。


(これをフェスタに渡せば、警備隊が動いてくれる!)


「お嬢ちゃん、見つけたか。アンタも使ってみたいのかい?」


振り向くと、下卑た笑みを浮かべた体格のいい男がいつの間にか後ろにいた。驚いた弾みでビンを床に落としそうになると、体格の良い男が見た目によらず素早くキャッチする。


「おっと、割れたらもったいないだろ。ちゃんと持ってろよな?」


度肝を抜かれたラビィは恐ろしさで固まったまま動けないでいたのだった。

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