浮気現場目撃2回目?
(なぜ、ここにいる......!?)
フェスタは真っ青だった。同じくマルタも。
「エリール!あのな、これはな、相談を聞いていただけで……!」
「フェスタ、あなたが何をしていても私には関係ないわ」
「そんな……本当だよ!」
「フェスタ様?」
首を少しかしげたラビィがフェスタを見上げている。エリールは、フェスタに寄り添うラビィを見ていたら何だか色々と悩んでいたのがバカらしくなってきた。
「ごきげんよう!」
スタスタと歩いて2人から離れる。マルタはキッとフェスタを睨むと、エリールの後を追った。
「フェスタ様?もしかしてあの方と別れてしまったのですか?」
「……一時的に距離を置いてるだけだ。別れてねぇ」
「私のせいで……?」
「それしかねえだろ。オレはエリールが本当に大事なんだよ。血迷ってアンタにキスしちまったけど」
「そんな言い方をするなんて、私にもあの方にも失礼ですね。......フェスタ様、1つアドバイスしてあげますわ。心配しなくても運命の人ならば、無理しなくても自然となるようになるものです。だから、慌てなくていいのです」
ラビィは自信ありげに手を胸に当てながら堂々と言い切る。
「……アンタ、恋愛の達人?」
「ウフフ。私は女優ですから」
フェスタは余裕そうに微笑むラビィに困惑していた。
その頃、エリールとマルタは文句を言いながら歩いていた。
「マルタの様子がヘンだったのはあれよね?あの2人が街にいるのを知っていたの?」
「すみません。学園の門でお嬢様を待っていたら、見るからに怪しいフェスタ様を見かけたもので後をつけました。もしかして新居を探ろうとしているのではないかと思ったので。そしたら、よりによって文具店のすぐ近くのカフェに入って行ったのです」
「じゃあ、あの2人はカフェでデートしてたってこと?」
「まあ、そうなんじゃないかと……」
「だから、あんなに急かせたのね……もっと文具店でゆっくり見れば良かったわ」
「そこですか?」
「そこよ。だってナゼ私が2人に気を使って急がなきゃいけないのよ」
「しっかりノート以外にも文具を買ったじゃないですか」
「まだ、買いたかったの!」
そんなやりとりをしながら新居となる部屋の前に来ると、キャプスが部屋の扉前に立っていた。
「仲がいいね。話し声が下からよく響いてきた。階段は吹き抜けになっているから丸聞こえだよ。気を付けた方がいいね」
「すみません、そのトラブルが起きていたので……」
「トラブルが起きた?」
「えーと、ひとまず立ち話もなんですから部屋でお茶でも飲みませんか?」
「そうだな」
扉を開いて部屋に入ると、まだ必要最低限の家具があるだけで寒々とした雰囲気だ。
「絨毯も敷こう。座り心地の良いソファやテーブルも必要だな」
キャプスも同じことを思ったらしい。居心地を良くするためのファブリック用品の手配をしてくれるみたいだ。
キッチンに置かれた簡素なイスに腰を下ろすと、マルタがお茶の用意をし始めた。
「今日は部屋の様子を見に来た。一応、君を保護する立場だからね」
「あの、実家にはこちらで生活を始めることも伝えたくないのですが」
「先日もそのようなことを言っていたね」
「心配性の兄達が今にも押しかけて来そうですし」
「まあ、僕としてはどちらでも構わない。たまに人をやって様子を見に来させようかとは思っている。フェスタは来させないから安心してくれ」
「フェスタと言えば……」
「さっき言ってたトラブルはフェスタが関係しているのか?」
「はい……」
「何があった?」
「街でフェスタがラビィという子とデートしていたところに鉢合わせしまして......私が数日悩んでいたのがバカみたいって思っちゃって」
「ああ、さっそく近づいたのか」
「さっそく近づいた?」
「ああ、彼等が一緒にいたのには理由がある。フェスタは君と鉢合わせしてどんな様子だった?」
「とっても慌ててました。捨ててきましたけど」
するとキャプスが突然、笑い始めたのでビックリした。彼のこんな笑った顔なんて初めて見たかもしれない。
「あの、ボス?」
「僕は君のボスじゃないから、ボスなんて呼ばないでくれ。普通に名前で」
「......すみませんキャプス様。それにしても笑い過ぎでは?」
「あー悪い。理由を話さない方が面白いが、彼が可哀そうかな」
「一体、何なんです?」
「フェスタがラビィといるのは仕事だからだ。浮気事件のことを利用させてもらっている」
「仕事?利用?」
「仕事だから心配しなくていい。いい気はしないだろうが」
「……何だかよく分かりませんが、仕事で接触しているなら彼等は安心してもっと仲良くなれるんじゃないですか?」
「フェスタはそんな器用じゃない」
「……」
“あの人、単純だから普通に本気になるんじゃないの?”という言葉がノドまで出かかった。
「本気になったらどうするのかって思った?」
「あなたは、人の思考が読めるのですか?」
「イヤ、君は顔に出やすいから。もし、彼が本気になったとしたら、それまでのことだってことだろ?」
「それはそうですね……」
淡々というキャプスは恋をしたことがあるのかなとエリールは思った。彼は誰とも浮いた話が出たことがない。フェスタと自分のことなんてどうでもいいみたいな感じもする。キャプスはモテてはいるけど、自由奔放なお母様のことがあるせいか、恋愛には興味がないみたいに見えた。
ちなみに、エリールがキャプスの屋敷に滞在している間、キャプスの母に会うことはついに無かった。遊び歩いているのは本当らしい。
「あの、仕事の内容って私も聞いても良いのでしょうか?」
「君がナゼ?組織の仕事には関わりたくないのだろう?」
「そうではありますけど、お世話になりましたし私ができることで何かお手伝いできないかと思って」
「近所のお使いじゃないんだよ。君は関わるべきじゃない」
そう言うと、キャプスは立ち上がって“では”と言って部屋を出て行ってしまった。テーブルに残ったカップにはお茶が半分残ったままだ。
「......彼って何を考えているか分からないわ。あんなに屈託なく笑ったかと思ったら、急に拒絶するような感じだし」
「お嬢様が考えるほど、組織に関わるのは愉快なことじゃありませんよ」
心配したような顔で言うマルタの顔がやたらエリールの記憶に残ったのだった。
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