街のカフェで待ち合わせ

翌日、授業を終えるとフェスタは門から人目につかないようにして出た。


(誰にも見られねぇようにしないと......!)


フェスタの姿を見ると話しかけて来る者も多いので、ショールで目元以外を隠すように顔を包んで歩く。その姿はどこか異国の宗教徒のようだ。この街で異国スタイルの者は珍しいのでかなり目立つことになるのだが......。彼は必死だった。


(怪しい……)


怪しすぎるフェスタの姿を見つけたマルタは、エリールを尾行しようと待ち伏せているのではと、彼を尾行することにした。マルタのスキルはズバリ“尾行”。足音や気配を消して近づくのはお手のものだ。


フェスタの背を追っていると、エリールの新居とは方角が異なる方向へと進んでいる。エリールを待ち伏せしようとしている様子もない。


(どこへ向かっているのかしら?)


追っていくと、少し裏手に入ったカフェに入って行く。


(もしかして捜査だった?)


マルタがしばらく様子を伺っていると、変わったことは起こりそうにもない。戻ろうかと思った時、それは起きた。


学園の制服を着たピンク頭の女子生徒がカフェに入って行ったのだ。


(あの珍しいピンクの髪といえば、例の看板女優?フェスタ様の浮気相手?)


マルタは怒りを感じた。


(お嬢様には何もないと言っておきながら密会しているとは!お嬢様をバカにしている)


マルタは冷静になろうと一度大きく息を吸って心を落ち着ける。エリールを学園まで迎えに行かねばならない役目がある。マルタは、しばらく新居になれるまでエリールの警備を兼ねて送迎をしていたのだ。


(お嬢様には知られないようにしなければ)


これ以上、お嬢様を傷つけたくない思いがあるマルタは今見たものを忘れることにした。


(あんなにお嬢様に惚れていたくせに……)


マルタは心の中で怒り狂いつつ足早に学園の門に着くと、既にエリールが待っていて遅れて来たマルタを心配していた。


「何かあったの?」

「いいえ、何も!お待たせしてすみませんでした。さあ参りましょう!」

「買い物していく?」

「いいえ。片付けも残っていますから真っすぐ戻りましょう」

「あ、待って!私、新しいノートを買いたいのよ。明日すぐ使いたいの!」

「私が買ってきましょうか?」

「いいの。私が直接、選びたいから」


マルタの思いとは別にエリールは例のカフェの方にドンドン向かって行ってしまう。


(お嬢様を止めないと!)


普段、マルタは冷静なタイプであるが焦った。


「えーとお嬢様、文房具はあちらの店が良いのでは?」

「いつもの店の方がいいわ。お気に入りのシリーズが置いてあるのよね」

「……では、急いで参りましょうか!」


(カフェから出てくる前に文具店へ……!)


エリールの手を握ると急いで歩く。


「マルタに手を引かれるなんて久しぶり。なぜ手をつなぐの?」

「それは、お嬢様を暴漢から守るためです……」

「昼間よ?」

「まあまあ、良いでは無いですか。たまには」


強引だが、あの2人に出会わないようにするのにマルタは必死だった。お目当ての文具店はよりによって例のカフェと通りを挟んだ斜め前。非常にマズすぎる位置関係なのだ。


「ふう、とりあえず着きましたね!さあ、早く選んで帰りましょう!」

「来たばかりじゃない。あ、コレかわいい~!」


エリールはカワイイ文具集めが好きだ。この店はフェスタとのデートでもよく来ていた。フェスタは無意識にエリールとよく通っていた文具店に近いカフェを選んでしまっていた。


マルタは文具店から例のカフェの様子を伺うと、2人は店の奥にでも座っているのか姿はここからは見えない。とりあえずホッとする。


(浮気相手の娘と話し込んでいるのかしら?お嬢様が帰るまで出て来るんじゃないわよ!)


そんな願いをこめてエリールの買い物が終わるのをひたすら待った。エリールはこのところ文具店に来ていなかったのもあり、新しい文房具を夢中で見ている。マルタはヒヤヒヤしていた。


「コレとコレとコレにするわ!」

「ノートだけじゃありませんでしたっけ?」

「いいじゃない。色々なことが起きたから自分を労わるためのプレゼントよ」

「まあ、いいですが。そんなお安いもので済むならば......」


お会計をして店から斜め前のカフェを警戒しながら出ると、まだカフェからあちらは出て来る気配がなくて安心した。


「文房具見るとテンション上がるわね!あら、あんなところに新しいお花屋さんができてるわ!」


エリールは今度は、カフェとは反対の斜め前の店にエリールは気をとられた。


「お嬢様、早く帰りましょうよ!」

「何で?お花、キレイじゃない。新しい家に飾りたいわ!」

「……じゃ、早く買いましょう!どれにするのです?」


またエリールは花選びに夢中になりはじめた。エリールは、多くの女性に当てはまることが多いであろう“買い物が長い”タイプだった。


「黄色い小さな花がたくさん咲いている鉢植えにするわ!」

「切り花じゃないんですね。新しい家は日当たりが良いから良く咲くでしょう……では、さっそく帰って日に当ててやりませんとね!」


マルタは鉢植えを持つと、エリールを急かした。例のカフェを足早に通り過ぎてしばらく歩くと、ようやくマルタはホッとした。


(良かったわ!アイツらに会わなくて)


だが、表通りに出た時にそのに会ってしまったのだ。


こちらを見て驚愕した表情のフェスタと、寄り添うように隣にいるラビィに。


マルタは倒れそうになったのだった。

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