フェスタ偵察する
キャプスの屋敷からエリール達が去ってから数時間後、フェスタが呼ばれていた。
「今日の用事って......」
「仕事だ」
「え、例のことじゃなかったのか?」
「フェスタがこっぴどくフラれた話か?」
「知ってるんじゃねえか。アンタに近づくなと言われたけど、オレなりのケジメだから見逃してくれよな」
「端的に聞いただけだ。新しい住処を紹介したからね。そこへは行くなよ」
「今の状態で押しかけても何も変わらないってのは分かってる。時間をかけてオレを信じてもらえるようにするしかねぇ」
「ならいい。ちなみに、彼女は今回の件を実家には伝えないようだ。兄達がフェスタに危害を加える恐れがあるからってね」
「あの、兄貴達やっかいなんだよな」
「お前が裏切るから悪い」
「裏切る......正直そこまで考えて無かった」
「そういうとこだ。フェスタの気を付けるところは」
「分かってるよ」
パイクが足音もなくやって来てテーブルにビンを置いた。中には白い粉が入っている。
「さて、仕事の話だ。これをフェスタは知ってるか?」
「知らねぇな、何だその怪しげな粉は」
「“ラブポーション”という媚薬だ。これが急激にこの国に広まっている。学園でも話題にたまに挙がるらしいぞ」
「逆にオレの前でそんな怪しい薬の話をしてくるヤツなんていねえからかなあ」
以前、フェスタはほかの媚薬を持ちこんでいた男子学生を学園で見つけたことがあった。その時、“こんなモンここに持ち込むな”と容器ごと踏みつぶした。それを見た男子生徒はフェスタに震え上がった。怒った時のフェスタは組織で仕事をしているだけあり、迫力があったのだ。
「そのビンだが、例のラビィという女子生徒がいる劇団員が持っていた。あの劇場は最近、投資詐欺にあって金に困っている。薬のやりとりに使われている可能性があるな」
「まっとうな捜査ならばオレ達の仕事じゃあないんじゃねえか?」
「そうでもない。表向きは警備隊が押収することにはなるが、押収した薬は組織が他国に流す。他国が欲しがっているからな」
「見返りは?」
「金と仕掛けて来た男だ。この街で好きにやってくれたからな」
「始末するのか?」
「……うまく利用するさ」
「他国に流した薬はどうなる?」
「悪いが、うちの国だけで手いっぱいだ。自分の国を守りたきゃ自分達で守るしかない」
「......OK。オヤジはもう知っているのか?」
「お前から伝えろ。それと、事前に劇団に探りを入れてこい。ラビィという女を使って」
「おいおい、オレが今最も近づきたくない相手だぜ!エリールに見られたくねぇ」
「仕事とプライベートを一緒にするな。今のお前が丁度いいんだ。ラビィはお前に興味がある」
「勘弁してくれよ……」
「さっそく明日からラビィに近づけ」
「分かったよ……」
フェスタはとんでもないことになったと思いながらキャプスの屋敷を出た。よりによってあのラビィに近づかなくてはならないとは……。エリールに反省しているところを見せるどころか、ますます嫌われてしまうじゃないか。
「ちくしょう……なんでだよ」
そのまま辻馬車を拾って自分の屋敷に戻り、仕事の内容を父親に伝えた。久しぶりに自分の部屋のベッドに寝そべると、最近の心労でたちまち眠気に襲われて眠ってしまった。
「……ふぁ、オレ寝てたか」
食事をとりに下に降りると、父や母が食事をしていたので一緒に食事をとることにした。学園からは少し距離があるので泊って行くように勧められたが、エリールのことを聞かれそうで早々に学園に戻ることにした。
再び、街まで戻ってくると一緒に乗り合わせていた辻馬車の客が劇場前で降りたのもあり、フェスタもつられて馬車を降りた。
公演のメインは夜である。ライトで照らされた劇場に入る人は以前に比べて少ないようだ。建物の塗装が剥げているところもあり、老朽化が目立つ。ラビィの言っていた悩みも切実な気がした。
「偵察してみるか…」
フロントでチケットを買うと、劇場の中へと足を踏み入れた。
中に入るとそれなりに席は埋まっている。劇場のロビーにいた人に比べて座席に座る人が少ない気がするのは気のせいだろうか。
しばらくすると劇が始まり、役者達が登場してきた。話は敵対している家同士のカップルの悲恋でどこかで聞いたことがあるような内容だったが、ラビィが演じるヒロインの演技には目を見張るものがあった。
(あの子、いい演技するじゃねえか)
あんないい演技するならばオレなんてすぐにだまされても仕方ないかもしれないなと思ってしまった。劇が終わると、同じ学園の男子生徒だろうか花束を持ってラビィに渡していた。
(オレに頼らなくてもそれなりにファンがいるみてーじゃないか)
そんな思いを抱きながらロビーに出た。やはり、人が多い気がする。
(これはやっぱり、あの薬をここでさばいてるんじゃねえか?)
劇場の裏側が気になり、フェスタはロビーに飾ってあった花を数本引き抜くと、そのまま楽屋の方へと向かって行った。
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