◆第二章 劇場の危機

現れた援助者

その頃、ラビィはフェスタが自分の思う通りにならないのでヤキモキしていた。


(もう、あんな地味な茶色の髪と目の女がそんなにいいのかしら。私みたいに可憐なピンクの髪の毛と瞳の方が女の子らしくない?)


肉感的なボリュームのある身体と大きな瞳を持つロリ顔の私に惹かれない男子ってそうはいないのにと、自分の容姿に自信のあるラビィは不満だった。


相変わらずチヤホヤとしてくれる男子生徒はいるものの、いわゆる大物令息はラビィに用心して近づいて来ないので、これといった金ヅルになりそうなターゲットも見つけられない。


フェスタは実に単純で気がいい男だったし、ラビィの好みだったので逃したくないと思っていた。だから、あれからラビィはフェスタに話しかけるチャンスを狙っていたのだが、彼はエリールに見られたくないからか、話しかけるチャンスさえくれなかった。


この前もラビィが“先日の相談の続きなのですが…”と話しかけたところ、“すまねぇが、アンタの頼みを聞くことはできねぇんだ”と言われてしまう始末。“きっと、あの地味な彼女に何か言われたのね”と妬ましく思っていたところだった。


「ラビィ嬢、この後、街に出てお茶でもどう?」


この人は伯爵家の四男だっただろうか?この人とお茶しに行くんだったら、演劇の稽古をした方がいいとラビィは考える。


「ごめんなさい。帰って次のお芝居の練習をしたいの。今度の劇も観に来てくれると嬉しいわ」

「必ず行くよ!花束持ってね!」

「ありがとう。一生懸命、練習するから期待してね。良かったらほかのお友達も誘ってもらえると嬉しいわ」

「ああ、そうするよ」


さりげなくほかの人も誘うように言ってみるが、彼がほかの人を誘ってきたことはなかった。花束は毎回持って来てくれたが。


(花束よりもお金なのよね......)


学園から劇場は近く歩いて行ける距離にある。それなのにラビィが寮にワザワザ入ったのは、学園が無償で利用できるようにしてくれたのが大きい。寮に入れば、自分一人分の生活費が浮くだけでなく、劇場の宣伝もしやすくなると見込んだからだ。


だが、ラビィに惹かれている何人かの男子生徒は劇場まで引っ張って来られるが、なぜか女子生徒はラビィをあまり良く思われず、思い通りに集客を見込めないでいた。


(どうにかして女の子にも観に来て欲しいのよね)


今、公演中ののぼり旗が出ている劇場前に着くと、ラビィはスタッフ口へと回った。


(女子が憧れるような女の子が出て来る演目ならいいのかしら。今まで私が演じた役は男性をトリコにする役が多いから)


そんなことを考え、衣装倉庫で新しい演目の小道具が無いか探してみようと思いつき歩いて行く。劇団のほかのメンバーもそれぞれ仕事を持っている者が多いので、この時間はまだ人が少ない。


倉庫の扉を開けて灯りを付けると、衣装や小道具がしまわれた箱がたくさん並んでいるのが目に入った。


「確か、奥の箱に短髪のカツラがあったわよね。あれを使って戦う女の子の話とかどうかしら」


台本は主にラビィの父や母が考えていることが多かったが、最近ではラビィも台本のストーリー案を出させてもらえるようになっていた。


奥の方にある大きな箱のフタを開くと、カツラがたくさん入っている。お目当ての短髪のカツラを見つけると、ラビィはカツラがつぶれないように詰められた紙をどけた。


どけた紙の間から、コロンとビンが突然出てきた。白い粉が入ったビンにコルクの栓が詰められている。これは何だろうと思っていると、学園で仲良くしているうちの男子生徒が言っていた話を思い出した。


『最近さ、街で“ラブポーション”ていう媚薬が流行っているんだよ。結構高いらしいんだけど、欲しがる人が多いみたいでさ。ラビィ嬢もファンのプレゼントには気を付けてよ。変なファンがいるかもしれないし』


その媚薬は白い粉だと言っていた。幻覚作用が大きいらしく、使い過ぎると廃人になってしまう危険があると聞いている。目の前の白い粉はその媚薬だろうか。


(これは一体……うちの劇団員が隠しているの?)


ラビィは見てはいけないものを見てしまった気がしてとりあえず、すぐに元に戻し箱にフタをした。


(両親に相談すべき?)


廊下に人がいないか確認して出ると、すぐさまいつも向かう事務所に向かう。両親はメンバーが集まるまで事務所にいることが多い。


急いで事務所の扉を開くと、両親が驚いた様子でこちらを見た。両親の前には見慣れない男性客がイスに座っていた。背が高く、ストライプ柄のベストにスーツ姿のスリーピースを着たきちんとした身なりの紳士だった。紳士は脚を組んで座っていたが、ラビィを見ると脚を下ろして感じ良くこちらに微笑んだ。


「やあ、こんにちは。君がラビィさんだね。こちらの看板女優だとか」

「え、ええ。そういう風に言ってもらっていますが......」

「私は、劇団の援助を提案させてもらいにこちらへと伺いました。ご両親からは何か聞いていたかな?」

「いいえ。今、初めて聞きました」

「そう、では詳しくはご両親に説明させてもらったので聞かせてもらうといい。私はそろそろ行きますので」


紳士はそう言って立ち上がると、事務所を出て行こうとする。慌ててラビィの両親が扉を開けたり、お辞儀をしたりしていた。


両親が戻ってくると、ラビィはさっそく紳士から聞いた話について両親に聞いた。

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